奈良弁護士会

「日本学術会議の在り方に関する有識者懇談会最終報告書」に関する会長声明

  1. 昨年12月20日、日本学術会議の在り方に関する有識者懇談会は「世界最高のナショナルアカデミーを目指して」と題する最終報告書(以下、「報告書」という。)を取りまとめた。報告書では、日本学術会議の今後の在り方について、国とは別の法人格を有する組織にする他、大臣任命の監事の設置を法定すること、大臣任命のレビュー委員会(評価委員会)の設置を法定すること、選考助言委員会の設置を法定することなどの提言がなされており、政府は提言を踏まえた法案を今年の通常国会に提出する予定であるとの報道もなされている。
  2. 日本学術会議は、「わが国の科学者の内外に対する代表機関として、科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させることを目的」とし、「科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること」等を職務とする特別の行政機関である(日本学術会議法2条、3条)。
     日本学術会議を構成する科学者が担う学問的研究は、各学問分野独自の真理探究の手続・方法を重んじることにより社会全体の中長期的な利益に貢献する業績を生み出す特殊な精神的活動であり、議論と多数決による政治部門からの独立も必要となる。そして、憲法が研究者個人の思想良心の自由や表現の自由にとどまらず23条において「学問の自由」を保障した重要な意義は、学問を担う大学等の学術機関や各研究者集団の自律、自治を保障するところにある。それゆえ、科学者で構成される日本学術会議においても、その組織の在り方において、会員による自律、自治が保障されなければならない。この理は、当会が2020年(令和2年)11月6日に発出した「日本学術会議会員の任命に関する会長声明」においても述べたところである。
  3. 報告書では、日本学術会議を国とは別の法人格を有する組織にするとの提言がなされているが、日本学術会議の「わが国の科学者の内外に対する代表機関」との位置づけは変わっていない。それゆえ、その組織の在り方についても憲法23条による「学問の自由」の保障の趣旨に照らし、政治部門から独立した、会員による自律、自治が保障されなければならないことには変わりがない。
     しかし、大臣による任命が提言されている監事やレビュー委員会(評価委員会)について、「業務執行の適正さをみる」「学術会議の使命・目的及び中期的な活動の方針に照らして評価を行う」というそれぞれの職務を名目として、政治部門が学術会議の運営に介入し、会員の学問の自由が損なわれるおそれがある。
     また、選考助言委員会は、日本学術会議の「会長が任命する会員以外の科学者を委員とし会員の選考過程について会長に助言する」こととされているが、各国のナショナルアカデミーで標準的な選考方式とされるコ・オプテーション方式(既存の会員が新会員を選任する)から逸脱する懸念があり、このような委員会を設置する必要性があるのか疑問である。
  4. 日本学術会議の在り方が議論されるようになった発端は、2020年(令和2年)10月1日、それまでの例に反し、菅義偉内閣総理大臣(当時)が日本学術会議の推薦した会員候補者の内6名を会員に任命しなかった件にある。日本学術会議も輿論も学問の自由の保障の見地からこれに抗議し6名の任命を度々求め当会も上記会長声明において6名の任命を求めたが、その任命が果たされることはなく6名を任命しない理由も明らかにされないまま、いわば論点をずらす形で日本学術会議の組織の在り方が議論されている。
     このような議論の在り方は本末転倒である。
  5. よって、当会は報告書の示す方向性に基づく日本学術会議法の改正に反対するものである。

以上

2025年(令和7年)2月26日
奈良弁護士会         
会長 嶋 岡 英 司


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