奈良弁護士会

選択的夫婦別氏に関する会長声明

第1 声明の趣旨

 当会は、国に対し、民法750条を直ちに改正し選択的夫婦別氏制度を導入することを求
める。

第2 声明の理由

  1. 夫婦同氏強制は憲法違反であること
     夫婦同氏を強制する民法750条及び戸籍法74条1号の規定は、憲法13条及び24条2項が保障する個人の尊厳、24条1項及び13条が保障する婚姻の自由、14条1項及び24条2項が保障する平等権を侵害するものである。このことは当会が2021年(令和3年)8月に発出した声明において既に述べたとおりである。
     すなわち、氏名は個人の尊厳を支える重要な人権の一内容であるから、改氏を義務づけられることは個人の識別を阻害し、変更前の氏名に紐付けられた個人の信用や評価を失うという重大な不利益がもたらされるのである。
     この点につき、2024年(令和6年)10月29日、国連女性差別撤廃委員会からも、夫婦同氏を強制する民法の規定を「差別的」と指摘があり、選択的夫婦別氏を導入する法改正を求められている。この指摘は2003年(平成15年)から実に4回目となり、20年以上にわたって指摘を受けてなお人権侵害の状況が継続しているという状態にある。
  2. 「通称」使用によっては問題が解消されないこと
     過去に最高裁判所が同氏を強制する民法を合憲とした根拠の一つとして、旧氏を通称とすることが広く認められている点があった。現在、国会においても通称使用の拡大を法的に担保する案が検討されている。
     しかし、旧氏はあくまでも通称であって法律上の氏ではない。そのため、登記手続、金融機関での手続において通称のみで手続を完結させられず、併記を要する場面が必然的に生じうる。通称使用の拡大によって問題を全て解消できるとは考え難い。
     例えば、旅券(パスポート)には現在旧氏が併記されるようになったが、これは日本独自の例外的措置である。それ故に旅券のICチップには旧姓は記録されないし、旧姓でのビザ
    取得や航空券購入は困難である。更には出入国審査で、旅券の記載事項について説明を求められる等、通称を使用する事によって却って通称使用者の不利益が生じている。
     通称を使用できる場面が拡大されたとしても、そのことによって不利益が全て解消されるわけではない。法律上、氏の変更を強制されないことによってのみ、不利益が解消されるのである。
  3. 婚姻の前後を問わない氏の継続的使用は社会の要請であること
    2024年(令和6年)6月18日、日本経済団体連合会(経団連)は、女性活躍の観点から選択的夫婦別氏の早期実現を求める提言を行った。これは、婚姻による改氏をするのが95%女性である(2023年(令和5年)、内閣府男女共同参画局)ことから、前記2のような様々な不利益が、主に女性の職業生活上の負担となり、女性の活躍を妨げている現状を踏まえた提言である。
     換言すれば、現在は強制的夫婦同氏制度によって、人権侵害が長期にわたって継続し、社会経済の発展が阻害されているとさえいえる。
  4. 制度導入の障壁が存在しないこと
     法務省法制審議会が選択的夫婦別氏制度の導入を提言したのは、1996年(平成8年)であって、既に29年前である。このとき、戸籍の記載方法など関係法令の改正案も既に整理されている。
     選択的夫婦別氏制度は、新たに国民に何かを義務づけるという制度ではなく、単に国民の選択肢を増やす制度であって、その必要性を国内外から複数回にわたり指摘されている制度である。今なお導入を先送りする合理的理由は存在しない。

第3 結語

 以上の通りであるから、当会は、国に対し、速やかに選択的夫婦別氏制度を導入すべく法改正することを求める。

以上

2025年(令和7年)2月26日
奈良弁護士会         
会長 嶋 岡 英 司


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