-
本日、静岡地方裁判所は、いわゆる「袴田事件」について、袴田巌氏(以下、「袴田氏」という。)に対し、再審無罪判決を言い渡した。
当会は、2023年(令和5年)6月に「いわゆる「袴田事件」の速やかな再審公判の開始と無罪判決を求めるとともに、再審手続制度の改正を求める会長声明」を発出していた。本日の静岡地裁判決は、袴田氏が本件犯行の犯人であることを推認させる証拠価値のある証拠(袴田氏が本件犯行を自白した本件検察官調書、袴田氏の犯人性を推認させる最も中心的な証拠とされてきた5点の衣類、5点の衣類のうちの鉄紺色ズボンの共布とされる端切れ)には、三つのねつ造があると認められ、これらを排除した他の証拠によって認められる本件の事実関係によっては、袴田氏を本件犯行の犯人であるとは認められないとして、袴田氏について無罪を言い渡しており、当然の結果である。 -
検察官は、「袴田事件」の上訴権を直ちに放棄せよ
私たちは、いわゆる「袴田事件」において、このような当然の司法判断が得られるまでに、想像を絶するような長期間を要したことを、決して忘れてはならない。すなわち、袴田氏は,48年近くにわたって身体拘束され、そのうちの33年間は死刑囚としていつ執行されるとも知れない絞首刑への恐怖に耐え続ける生活を送ってきた。そのため、袴田氏には現在もなお拘禁反応の症状がみられ、心身に不調を来している。更に、2014年(平成26年)3月に静岡地方裁判所が再審開始並びに死刑及び拘置の執行停止を決定してからも、本日の判決までには10年以上が経過しているのであり、袴田氏は、今や88歳となっている。
袴田氏をその人生の大半に及んだえん罪被害から解放し、そしてこれまでに被った被害の回復を図るには、もはや一刻の猶予もない。併せて、本件の長きにわたる審理経過も踏まえれば、本日の無罪判決は先にも述べたとおり当然の判決なのであるから、当会は、検察官に対し、これを尊重して直ちに上訴権を放棄し、判決を確定させることを強く求める。 -
政府・国会は、公正かつ明確な刑事再審のルールを速やかに制定せよ
また、私たちは、袴田氏が被ったようなえん罪被害を二度と発生させないために、今こそ再審法の改正に向けて行動しなければならない。
この点、刑事再審制度について具体的にどのような法改正がなされるべきかは、当会が2023年(令和5年)5月29日に行った「刑事再審制度の改正に関する総会決議」において述べられているとおりである。すなわち、第1に再審請求審の事実調べについてデュープロセスに基づく当事者主義を基調とした手続規定を創設すること、第2に再審請求の前後を問わず検察の手持ち証拠の開示制度を創設すること、第3に再審開始決定に対する検察官の不服申立制度を廃止することである。
これらの法改正がなされていれば、袴田氏に対し誤って死刑を言い渡した確定判決はより早期に破棄・是正されていたといえるし、それはいわゆる大崎事件をはじめとするその他の再審えん罪事件においても同様である。つまり、公正かつ明確な手続的ルールが定められていなければ、再審制度は「誤判からの速やかな救済」というその重要な機能を十分に発揮し得ないことは、もはや明らかなのである。
そこで、当会は、ここで改めて、政府及び国会に対し、上記内容を含む再審法の改正を速やかに行うよう求めるものである。
以上
2024年(令和6年)9月26日
奈良弁護士会
会長 嶋 岡 英 司