会長 田中 啓義
「日本国憲法の改正手続に関する法律」は、2007年4月13日の衆議院本会議に引き続き、5月14日の参議院本会議で慎重な審議を求める多数の国民の意見に反して採決がなされ、与党の賛成多数で可決成立となった。
同法は、国民が主権者として、国の最高法規である憲法の改正案を承認するかどうかの意思を表明する憲法改正国民投票の手続を定めるものであり、その内容をどのように定めるかは、国民投票の結果に重大な影響を及ぼすものである。そのため、慎重な審議を求める声が多くの国民から寄せられ、地方公聴会や参考人質疑でも、法案への賛否の立場を越えて慎重な審議を求める声が一致して出されていた。しかるに、衆議院においては、中央公聴会が2回、地方公聴会が大阪と新潟の2箇所で開かれたのみで、参議院においては連日の委員会の開催で拙速に審議を進め、中央公聴会も開かずに審議を打ち切り、委員会及び本会議の採決をしたことは極めて遺憾である。
そして、成立した法律は、衆議院段階で一部修正がなされたものの、(1)最低投票率を定める規定がなく、ごく少数の賛成により憲法改正がなされるおそれがあること、(2)投票日前14日間、テレビ・ラジオの有料意見広告を一律に禁止することは、表現の自由に対する過度の規制である一方で、それまでの期間は何ら規制が加えられておらず、資金力ある政党・団体が有料意見広告を独占的に行うおそれを排除できないこと、(3)公務員・教育者について広汎な運動規制がかかり、自由であるべき憲法改正問題についての論議の萎縮が起こること、(4)一括投票の余地が残されていること、(5)国民投票広報協議会の構成が各議院における各会派の所属議員の比率により選任されるため、反対意見が適切に反映されないおそれがあることなど、多くの問題点が残されたままとされた。
参議院の憲法調査特別委員会では18項目に及ぶ付帯決議が採択されたが、この中には、「低投票率により憲法改正の正当性に疑義が生じないよう、憲法審査会において本法施行までに最低投票率制度の意義・是非について検討を加えること」「公務員等及び教育者の地位利用による国民投票運動の規制については・・・禁止される行為と許容される行為を明確化するなど、その基準と表現を検討すること」「罰則について、構成要件の明確化を図る等の観点から検討を加え、必要な法制上の措置も含めて検討すること」「憲法改正原案の発議にあたり、内容に関する関連性の判断は、その判断基準を明らかにするとともに・・・適切かつ慎重に行うこと」など、本来であれば法案審議の中で明らかにされ、本法の条文に盛り込まれるべき事項が少なからず含まれている。
いうまでもなく、憲法改正は国のあり方を決定する重大問題である。本法についての国民的論議は緒についたばかりといっても過言ではなく、広く国民的議論を尽くすことが必要である。
当会は、憲法改正を最終的に国民に委ねている憲法第96条の趣旨が十二分に生かされるよう、本法施行までの3年間に、上記の問題点等について慎重に再検討を重ねて、抜本的な修正がなされることを強く求めるものである。