私たちは,性的マイノリティ―の人々を含むあらゆる人々が,個人として尊重され,差別や偏見を受けることなく生きることのできる社会を目指している。
ここに,婚姻は,両当事者において永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むことが本質にあり,婚姻の自由は,個人の尊厳や人格的生存に深く関わる価値を有している。
このため,上記社会を実現するには,すべての人が,性的指向にかかわらず婚姻するかしないかを選択できることが必要である。そして,婚姻の自由は,憲法の下,あらゆる人に等しく保障されている権利である。
具体的にみれば,憲法13条は,生命・自由及び幸福追求に対する国民の権利を保障しており,同性カップルの婚姻の自由は幸福追求権から導き出すことができる。憲法14条1項は,法の下の平等を保障しており,婚姻制度の適用について性的指向により異なる扱いをすることは許されない。憲法24条1項は婚姻の自由を保障した規定であり,「婚姻」には同性婚が含まれると解釈されるべきである。憲法24条2項は,婚姻制度の利用についての自由であり,同性カップルについて同制度に付与されている利益の享受一切を排することは許されない。
したがって,同性カップルの婚姻の自由を侵害することは,憲法13条,14条1項,24条1項及び同条2項に反する。
このような中,2019年2月に,全国の13組の同性カップルが,同性間で婚姻できないことは違憲であると主張して,4つの地方裁判所(札幌,東京,名古屋,大阪)で訴訟を提起した(「結婚の自由をすべての人に訴訟」)。2019年9月には福岡地裁でも訴訟提起し,2021年には東京地裁で第二次訴訟を提起した。
これらの訴訟のうち,2022年3月に札幌地裁で憲法14条1項に違反するとの判断が,同年11月に東京地裁で憲法24条2項に違反する状態にあるとの判断が,2023年5月に名古屋地裁で憲法24条2項及び14条1項に違反するとの判断が,同年6月に福岡地裁で憲法24条2項に違反する状態にあるとの判断が下された。なお,2022年6月,大阪地裁では合憲との判断が下されたが,立法不作為が将来的に憲法24条2項に違反する可能性が指摘されている。
これに対し,政府は,民法及び戸籍法の諸規定が,婚姻制度を異性間のものとして定め同性婚を認める規定を設けていないことから,同性婚は認められないとの解釈をとった上で,前記判決が確定していないことや他の裁判所で同種訴訟が係属していることなどから,同性婚の法整備をしようとしない。
しかしながら,そもそも憲法は,同性婚を禁止していない。確かに,憲法24条1項が「婚姻は,両性の合意のみに基づいて成立し」との文言を用いていることから,同性婚は憲法上許容されていないのではないかが問題となりうるが,最高裁は,憲法24条1項の規定を,「婚姻をするかどうか,いつ誰と婚姻をするかについては,当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるという趣旨を明らかにしたもの」と解しており(最高裁大法廷平成27年12月16日判決),憲法は同性婚を禁止する趣旨ではない。
民法も現在の憲法の下で「個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として,解釈しなければならない」とされていること(民法2条)からすれば,民法が同性婚を認める規定を設けていないことをもって,同性婚を禁止する趣旨とは解釈できない。
さらに,戸籍法が規定する戸籍制度は,現代社会においては,人の出生から死亡に至るまでの身分関係を公証するという機能が果たせるかが重要であり,戸籍制度自体が同性婚を禁止するという結論を導くものではない。
ところで,全国の地方公共団体をみれば,東京都渋谷区が2015年10月にパートナーシップ証明制度を導入したのを皮切りに,現在では奈良県内の奈良市,大和郡山市,生駒市及び天理市を含め,多くの地方公共団体が同様の制度を導入している。
しかしながら,これらの制度は婚姻の法的効果を生じさせるものではなく,同性カップルが,婚姻,相続,親子関係等の様々な点で公的な保護が与えられず,かつその身分関係を国の制度によって公証されないという状況に変わりはない。
パートナーシップ制度は婚姻制度と異なるものであり,同性婚の法整備は必要不可欠である。
現代社会においては,家族のあり方が多様になり,性的マイノリティーの人々に対する理解も浸透しつつある。また,同性カップルを保護するための制度化が世界規模で進行している。このような状況を前提に,憲法の保障する婚姻の自由の下で,当事者の性別に関わりなく,婚姻,相続,親子関係等の様々な点で公的な保護が与えられること,かつその身分関係を国の制度によって公証される制度設計を行うことは国の責務である。
私たちは,地裁の4件の判決で,同性間で婚姻できないことが違憲あるいは違憲状態にあるとの判断が出されたことを重く受け止める必要がある。
当会は,ここに,あらゆる性が個人として尊重され,差別や偏見を受けることなく生きることのできる社会を目指し,国に対し速やかに当事者の性別に関わりなく結婚を可能とする法制度を整備することを求める。
2024年(令和6年)1月22日
奈良弁護士会
会長 山 口 宣 恭