会長 藤本 卓司
違法な取調べを根絶するには可視化しかない。
不当な取調べを根絶するには可視化しかない。
そもそも、自白を強要することは憲法38条に違反する。
ところが、被疑者等の取調べは取調室という密室で行われているために、被疑者等が捜査官によって虚偽の自白をさせられたり、捜査官が被疑者等の供述と違う内容の調書を作成したりすることが少なくない。
免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件のいわゆる死刑・再審無罪4事件だけでなく、最近の宇和島事件、志布志事件、氷見事件、北方事件からも明らかなように、虚偽の自白を誘発する違法・不当な取調べは現在でも行われている。
密室での取調べにおいて何が行われたか、については客観的に証明する手段がない。そのため、捜査段階で虚偽の自白が強制されて供述調書が作成されてしまうと、後に公判廷において、その任意性や信用性を争っても、取調官や被告人等の尋問に膨大な時間が費やされることになり、裁判は長期化し、冤罪を生んでしまう。
密室における自白強要を防止し、取調べの適正を確保する最善の方法は、被疑者等の取調べの全過程を録画することである。
この取調べの可視化は、今や世界の潮流であり、イギリス、オーストラリア、アメリカの各州、イタリア、香港、台湾、韓国、モンゴル等で取調べの録画や録音が実施されている。
わが国では、2009年5月21日から、市民が刑事裁判に参加する裁判員制度が実施される。取調べの全過程を録画すれば、密室での取調べ状況を客観的に把握でき、自白の任意性や信用性の審理を合理化することができる。裁判員に加重な負担をかけないで裁判員裁判を円滑に実施するためにも、取調べの可視化は早急に実現されなければならない
現在、検察庁は、検察官による取調べの一部を試行的に録画している。警察庁も取調べの一部録画の試行を予定している。しかし、これらの一部録画は、自白調書作成後に取調べ状況を確認するだけのものにすぎず、違法・不当な取調べを抑止することはできない
取調べの適正化を図り、自白の任意性・信用性の審理を合理化し、虚偽自白に基づく冤罪を根絶するためには、検察官による取調べのみならず、警察官による取調べも含めた全ての取調べの可視化を実現するしかない。
奈良弁護士会は、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)の実現を強く求める。