会長 藤井 茂久
昨年以来の経済危機を背景に、派遣労働者を含む非正規労働者に対する雇用の打ち切り、いわゆる「派遣切り」が社会的な問題となっている。厚生労働省の集計によると、本年6月までに全国で約20万人の非正規労働者が職を失うとされており、奈良県においても、1500人にせまる非正規労働者が、職を失うことになる。昨年末に発表されたシャープ株式会社天理工場における派遣労働者の削減のニュースは記憶に新しい。
いままで不安定かつ低賃金労働に従事してきた非正規労働者は、しばしば、職を失うことで、住居を含めた生活の基盤ごと破壊されることに直結してしまう。本年初頭の「年越し派遣村」の例は、我が国における非正規労働者の実態を象徴するものと言って良い。
ところで、日本弁護士連合会は、昨年11月、派遣対象業務の専門的なものへの限定、登録型派遣の禁止、均等待遇原則の確立、直接雇用のみなし規定の創設などを柱とする「労働者派遣法の抜本改正を求める意見書」を発表した。しかし、現在、国会に上程されている政府案は、上記のような問題を解決するには不十分なものに留まっている。例えば、上記のような問題の原因となっている登録型派遣は、禁止の対象となっていない。また、派遣労働者を同法の定める期間を超過して雇入れていた場合も、厚生労働大臣が、派遣労働者の役務の提供を受ける者(「派遣先」)に対し、事前の指導・助言なしに、労働契約締結の申込みの「勧告」ができるものとされるに留まり、当該派遣労働者・派遣先事業者間の労働契約を直接創設するものとはなっておらず、実効性に大きな疑問が残る。もちろん、雇用保険法の改正を含む各種セーフティネットの拡充も必要であるが、「派遣切り」による被害を二度と発生させないためには、やはり労働者派遣法の抜本的な改正は必要不可欠である。
あくまで、労働契約というのは、労働者と労務の受入先との間で直接締結されるのが原則であり、派遣労働というのは、労働基準法6条の定める中間搾取の禁止、あるいは職業安定法44条の定める労働者供給事業の禁止の例外をなすものである。したがって、上記のような社会問題の原因の一つとなっていることを踏まえると、非正規労働者の雇用と生活基盤を守るという観点から
- 日雇い派遣を含め不安定な労働形態の典型である登録型派遣は原則として禁止すること。
- 労働者派遣の対象となる業務を高度な専門性の認められるものに限定すること。
- 派遣労働者と派遣先労働者との均等待遇の確保を義務づけること。
- 違法派遣、偽装請負があった場合には、派遣労働者と派遣先事業所との間で、直接労働契約が成立していると「みなす」規定を創設すること。
は、この度の法改正の機会に、是非とも実現されるべきである。