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昨今、奈良地方裁判所管轄内裁判所に係属している刑事事件について、身体拘束されている被疑者・被告人の収容場所を、奈良県内にある奈良拘置支所や葛城拘置支所ではなく、大阪拘置所や京都拘置所など、奈良地方裁判所管轄内裁判所から遠方の刑事収容施設に検察官が移送し、かかる移送に裁判長(第1回公判前は裁判官、以下同じ。)が同意する例がある。
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そもそも、検察官による被疑者・被告人の移送は、刑事訴訟規則第80条1項により裁判長の同意を要件としていること、裁判長の同意自体が準抗告の対象と解されていること(最一小決昭和46年11月12日)からすれば、自由裁量ではありえない。
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この点、国選弁護人は、原則として、管轄裁判所内にある弁護士会に所属する弁護士の中から選任しなければならないとされているなど(刑事訴訟規則第29条第1項本文)、奈良地方裁判所管轄内裁判所に係属している刑事事件の多くは奈良弁護士会会員が弁護人を担っているところ、被疑者・被告人の収容場所を事件が係属している奈良地方裁判所管轄内裁判所から遠方にすることは、奈良弁護士会会員である弁護人による接見を時間的経済的に困難にするものである。かかる移送は、憲法34条に由来する弁護人の接見交通権(刑事訴訟法39条1項)を実質的に侵害するものである。また、被疑者・被告人の防御は弁護人の活動を通じて実現されるところ、弁護人の接見交通権が侵害されることにより被疑者・被告人の防御権そのものが直接的に侵害される事態につながるものである。
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また、遠隔地に収容されることにより、移動時間の増大や交通事情の影響を受けることになり公判に影響を及ぼすことがある。実際、大雪の影響による通行止めにより京都拘置所からの移送が行えず、奈良地方裁判所管轄内裁判所の公判期日が延期され、京都拘置所に収容されていた被告人の身体拘束期間が増大するという具体的弊害が発生している。
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奈良県内には新設された奈良拘置支所及び葛城拘置支所が存在し、収容業務が物理的に可能であることからすれば、拘置所における職員の人員配置等行政内部の事情により接見交通権の侵害が正当化されることはありえない。
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したがって、憲法34条に由来する接見交通権を保障し被疑者・被告人の防御権を確保するため、奈良地方裁判所管轄内裁判所に係属している事件の被疑者・被告人について、検察官が、奈良地方裁判所管轄内裁判所から遠方の刑事収容施設に移送してきたこと及びかかる移送に裁判長が同意してきたことに対して抗議する。更に今後は、検察官による恣意的な移送を行わないこと及びかかる移送に対して裁判長が同意しないことを求めるものである。
2023年(令和5年)3月24日
奈良弁護士会
会長 馬場 智巌
2023年3月30日会長声明