奈良弁護士会

奈良県の最低賃金額の大幅な引上げを求める会長声明

2022年(令和4年)6月22日
奈良弁護士会 会長 馬場 智厳

  1.  厚生労働大臣は、2022年6月28日、中央最低賃金審議会に対し、2022年度の地域別最低賃金額の改定の目安についての諮問を行う予定となっており、例年通りであれば、7月には、その答申がなされる見込みである。
     これを受け、奈良地方最低賃金審議会においても、同年度の奈良県の地域別最低賃金に関する審議がなされ、奈良労働局長によって決定される。
  2.  ここで2021年度の奈良県の地域別最低賃金であるが、時間給866円とされている。この金額は、前年度から28円の引上げとなったものの、全国の加重平均である930円を大幅に下回る実態は放置されたままである。仮に月に173.8時間働くとしても、月額15万0510円に留まる。このような最低賃金の水準では、貧困の解消、労働者の生活の安定や向上を図る上で不十分であり、事業の公正な競争を確保することも困難である。
     また、同年度における周辺府県の地域別最低賃金は、大阪府が992円、京都府が937円、滋賀県が896円、三重県が902円となっており、いずれも奈良県の地域別最低賃金を大幅に上回っているなど、あいかわらず周辺府県との格差の問題も解消されていない。
  3.  昨今の調査研究によれば、最低賃金を定めるにあたって重要な考慮要素とされている労働者の生計費に関し、都市部と地方との間で、ほとんど差がないことが明らかになっている。これは、地方では、都市部に比較して住居費が比較的低廉であるものの、公共交通機関の利用が制限されるため、自動車の保有を余儀なくされることが背景にある。
     このような指摘は奈良県にもあてはまり、東京都との格差もさることながら、周辺府県との格差を放置したままにしておけば、将来、有為な人材の流出にもつながりかねない。
  4.  ところで、最低賃金の引上げは、中小企業の経営に大きな影響を与える。従前から業務改善助成金といった制度が設けられているものの、中小企業にとって、必ずしも使いやすいものとは言えない。
     中小企業の経営を長期的に支援し、従業員の雇用を保護していくためには、最低賃金の引上げとともに、社会保険料の減免といった思い切った中小企業向けの施策もワンセットで検討されなければならない。
  5.  以上の通り、奈良県における最低賃金の引上げは急務であって、本年度の地域別最低賃金を決定するにあたっては、周辺府県と同様、少なくとも900円を大幅に上回るような引上げがなされることを求める。

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