2022年(令和4年)4月25日
奈良弁護士会 会長 馬場 智巌
- 民事訴訟法等の一部を改正する法律案が2022年(令和4年)3月8日に閣議決定され、国会に提出されている。
今回の改正の主たる目的は、「民事訴訟手続等の一層の迅速化及び効率化等」であり、その中心は、民事訴訟のIT化である。ところが、今回の法律案の中に、民事訴訟法に「第7編 法定審理期間訴訟手続に関する特則」を新設するというIT化とは異質な改正が混在している。
この手続は、当事者双方の合意がある場合は、5カ月以内に攻撃防御方法を提出させ、6カ月以内に証拠調べを終えて口頭弁論を終結し、その後1カ月以内に判決を言い渡すとする手続である。 - 確かに、訴訟手続の迅速化は重要な課題であるが、この手続は、消費者契約関係紛争・個別労働関係紛争については除外されてはいるものの一般の民事紛争を広く対象とし、少額訴訟手続のように訴額を限定することもなく、審理期間を6カ月以内(攻撃防御方法の提出は5カ月以内)と限定している。そのため、慎重な審理が必要であると考えられる事件についてまで、不十分、粗雑な審理を招く危険性が大きく、憲法第32条が保障する「裁判を受ける権利」の侵害となる。
- これまでの経緯を振り返ると、このような手続は、2019年(令和元年)ころ「特別訴訟手続」として突然現れ、その後、2021年(令和3年)の中間試案では「新しい訴訟手続」と名称を変えたものの反対意見にさらされ、さらに名称を変えて提案されているものである。
今回の法律案では、反対意見を受けてか、当事者が申出をすれば通常手続に移行する、終局判決に異議を申し立てれば通常手続でやり直すなどとされ、もはや本来の目的である訴訟手続の迅速化すら実現できない制度となっている。
このような手続が利用されるとは考えられず、あえて創設する必要性は、まったくない。 - そもそも、訴訟手続の迅速化のためには、何よりも裁判官・書記官等の裁判所職員の増員こそが避けては通れない喫緊の課題である。裁判所の人的体制が強化されれば、期日は入りやすくなり、充実した審理に基づく判決が迅速に言い渡されることは明らかである。
ところが、判事補の採用数を見ると、2005年度(平成17年度)には124人だったものが、2020年度(令和2年度)はわずかに66人に過ぎない。
裁判所職員の増員こそ、直ちに取り組むべき問題である。 - 以上の次第であるから、今回の法律案について、「第7編 法定審理期間訴訟手続に関する特則」を新設することに反対する。