2021年(令和3年)12月20日
奈良弁護士会 会長 中村 吉孝
民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げる「民法の一部を改正する法律」(平成30年法律第59号。以下「本法律」という。)の2022年(令和4年)4月1日の施行日が目前に迫ってきている。
本法律成立に際しては、参議院法務委員会において全会一致で附帯決議がなされ政府に配慮が求められた。その内容は、①知識、経験、判断力の不足など消費者が合理的な判断をすることができない事情を不当に利用して事業者が消費者を勧誘し契約を締結させた場合における消費者の取消権(いわゆるつけ込み型不当勧誘取消権)を創設すること(法成立後2年以内)、②若年者の消費者被害を防止し救済を図るために必要な法整備を行うこと(法成立後2年以内)、③マルチ商法等への対策について検討し、必要な措置を講ずること、④消費者教育の充実を図ること、⑤18歳、19歳の若年者への周知徹底や社会的周知のための国民キャンペーンの実施を検討すること、⑥施行日までに措置の実施、効果、国民への浸透について検討し、その状況を公表すること等であった。
ところが、本法律が成立した2018年(平成30年)6月以降、施行まで半年を切った現時点においても、いずれの施策もいまだに不十分であると言わざるを得ない。特に、18歳、19歳の若者が未成年者取消権を喪失することによる若年者の消費者被害拡大に対応する施策は急務であるところ、必要不可欠な施策であるつけ込み型不当勧誘取消権の創設は、附帯決議に明示された期限を既に経過しているにもかかわらず、その目途も立っていない。また、消費者教育についても、「若年者への消費者教育の推進に関するアクションプログラム」や「成年年齢引下げに伴う消費者教育全力キャンペーン」等は実施されているものの、消費者被害の予防につながる実践的な消費者教育が全国的に十分に行われているとは言えず、さらに、成年年齢引下げの弊害としての未成年者取消権の喪失による消費者被害拡大のおそれについての周知徹底はなされているとは言い難い状況にある。
上記状況からすれば、附帯決議で示された消費者被害を防止するための施策はいまだ不十分と言わざるを得ず、これから直ちに必要な措置をとったとしても、施行日までに消費者被害を防止するための施策を実現するのは極めて困難である。このような状況において本法律を施行すべきではない。
よって、当会は、国に対し、成年年齢引き下げの施行日を延期した上で、前記附帯決議に示されたような成年年齢引下げに伴う弊害防止のための実効性ある施策を実現することを求めるものである。