2021年(令和3年)7月19日
奈良弁護士会 会長 中村吉孝
- 厚生労働大臣は、2021年6月21日、中央最低賃金審議会に対し、2021年度地域別最低賃金額の改定の目安についての諮問を行っており、同年7月16日、全国一律時間給28円の引上げを求める答申がなされた。
これを受け、奈良地方最低賃金審議会においても、同年度の奈良県の地域別最低賃金に関する審議がなされ、奈良労働局長によって決定される。 - ここで2020年度の奈良県の地域別最低賃金であるが、時間給838円とされている。この金額は、前年度よりわずか1円の引上げにとどまっており、全国の加重平均である時間給902円を大幅に下回る。仮に月に173.8時間働くとしても、月額14万5644円に留まる。このような最低賃金の水準では、貧困の解消、労働者の生活の安定や向上を図る上で不十分であり、事業の公正な競争を確保することも困難である。
また、同年度における周辺府県の地域別最低賃金は、大阪府が964円、京都府が909円、滋賀県が868円、三重県が874円となっており、いずれも奈良県の地域別最低賃金を大幅に上回っているなど、あいかわらず周辺府県との格差の問題も解消されていない。 - ところで、昨年度、わずか1円の引上げにとどまった理由として新型コロナウイルスの感染拡大の影響がある。
しかし、これまで最低賃金付近の低賃金労働を強いられてきた労働者は、もともと日々の生活を送るだけで精一杯であり、貯蓄も十分とはいえない。このような根本的な問題を放置したまま、最低賃金の引上げを停滞させてはならない。
そもそも、コロナ禍において、市民のライフラインを支えている物流関係の労働者、あるいは福祉・介護関係の労働者の中には、最低賃金付近の低賃金で働く者が多数存在する。これらの労働者の努力に応え、その生活を支えるためにも、最低賃金の大幅な引上げが、実現されなければならない。
実際、欧州諸国では、コロナ禍においても、最低賃金の引上げが行われており、わが国との格差は、ますます拡大している。 - 一方で、最低賃金の引上げは、中小企業の経営に大きな影響を与える。中小企業に対しては、従前からある業務改善助成金といった制度に加え、新型コロナウイルスの感染拡大への対処として様々な支援策が実施されてきた。
しかし、中小企業の経営を長期的に支援し、従業員の雇用を保護していくためには、社会保険料の減免や減税といった思い切った施策も検討されなければならない。 - 以上の通り、本年度、奈良県における地域別最低賃金を決定するにあたっては、昨年度における時間給838円という水準を大幅に上回る引上げがなされることを求める。