奈良弁護士会
会長 宮坂 光行
会長 宮坂 光行
- 現在、厚生労働大臣は、中央最低賃金審議会に対し、2020年度地域別最低賃金額の改定の目安についての諮問を行っており、本年7月には、その答申がなされる見込みである。
これを受け、奈良地方最低賃金審議会においても、同年度の奈良県の地域別最低賃金に関する審議がなされ、奈良労働局長によって決定される。 - ここで、2019年度の奈良県の地域別最低賃金であるが、当会が同年7月22日付会長声明において、大幅な引き上げを求めたものの、時間給837円とされた。この金額は、全国の加重平均である時間給911円を大幅に下回っており、仮に月に173.8時間働くとしても、月額14万5471円に留まる。このような最低賃金の水準では、貧困の解消、労働者の生活の安定や向上を図る上で不十分であり、事業の公正な競争を確保することも困難である。
また、同年度における周辺府県の地域別最低賃金は、大阪府が964円、京都府が909円、滋賀県が866円、三重県が873円となっており、いずれも奈良県の地域別最低賃金を大幅に上回っているなど、周辺府県との格差の問題も依然として解消されていない。 - ところで、今般の新型コロナウイルスの感染拡大に伴い緊急事態宣言がなされたことに照らして、最低賃金の引上げを抑制すべきとする議論が一部に存在している。
しかし、これまで最低賃金近傍の低賃金労働を強いられてきた労働者は、もともと日々の生活を送るだけで精一杯であり、今般のような緊急事態に対応するための貯蓄すら充分ではない。このような根本的な問題を放置したまま、最低賃金の引上げを後退させてはならない。
そもそも、緊急事態下において市民のライフラインを支えている物流関係の労働者、あるいは福祉・介護関係の労働者の中には、最低賃金近傍の低賃金で働く者が多数存在する。これらの労働者の努力に応え、その生活を支えるためにも、最低賃金の引上げは、実現されなければならない。 - 一方で、最低賃金の引上げは、中小企業の経営に大きな影響を与える。中小企業に対しては、新型コロナウイルスの感染拡大への対処として様々な支援策が実施されつつあるが、これと並行して、社会保険料の減免や減税といった中小企業の経営を長期的にも支援する施策も検討されなければならない。
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律や下請代金支払遅延等防止法といった中小企業を保護する役割を果たす法制度をこれまで以上に積極的に運用する必要があることは言うまでもない。 - したがって、本年度、奈良県における地域別最低賃金を決定するにあたっては、新型コロナウイルスの感染拡大の下においても、ライフラインを支える労働者の生活を支え、周辺府県との格差を改善するためにも、昨年度における時間給837円という水準を大幅に上回る引上げがなされるべきである。