会長 山﨑靖子
本年2月14日、政府は、「マイナンバー法案」(正式名称「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案」)を国会に提出した。本年9月7日に閉会した通常国会では継続審議とされたが、次期臨時国会で成立することが予想される。
この法案は、すべての国民と外国人住民に対して、社会保障と税の分野で共通に利用する識別番号(マイナンバー)をつけることにより、現在、行政のデータベースに別々に管理されている個人情報(納税情報、健康保険情報、年金情報)等の名寄せ・統合(データマッチング)を、情報提供ネットワークシステムを通じて可能にする共通番号制度を創設しようとするものである。
この共通番号制度がデータマッチングの対象に想定している情報は、氏名、住所、生年月日、性別といった基本情報だけでなく、年金、福祉、税務等のセンシティブ情報を含む広範囲なものであり、これら個人情報が本人の知らない間に集約され分析されることになれば、プライバシー権が侵害される危険性は極めて高い。
また、一旦データベースから情報が漏洩してしまえば、さらに芋づる式に関連情報の漏洩を招くおそれがあり、これにより対象者に回復困難な損害が生じる危険性が高く、漏洩した情報を利用した他人による「なりすまし」の危険性も否定できない。そして、これらの危険は、第三者機関の設置や違法行為に対する厳罰化では防止できない。
これまで、政府は、共通番号制度の導入を、「正確な所得捕捉」と「税と社会保障一体改革」のために必要だと説明している。しかし、政府は,昨年6月30日に発表された「社会保障・税番号大綱」において、共通番号制度を導入しても「正確な所得捕捉」が非現実的であることを自ら認めた。また、本年6月15日になされた「税と社会保障一体改革」の三党修正合意では、消費税増税を先行させ、所得税・相続税等の累進課税強化は先送りされた。他方、社会保障の充実の具体的内容は明らかにされていない。
このように「税と社会保障一体改革」の行方が混沌としている中で、その手段である共通番号制度を導入することは本末転倒であり、膨大な税金の無駄遣いになりかねない。
以上のとおり「マイナンバー法案」が創設しようとしている共通番号制度は、個人の尊厳や自己決定権に深く関わるプライバシー権を著しく侵害するという面でも、その目的や理念の面でも問題が大きい。したがって、当会は、「マイナンバー法」の制定に強く反対する。