奈良弁護士会

民法(債権法)改正作業の見直しを求める会長声明

奈良弁護士会
会長 山﨑靖子

現在、法制審議会の民法部会において、民法(債権法)改正案が審議されており、2013(平成25)年2月を目標に中間試案のとりまとめがなされようとしている。

公表されているところによれば、改正の方向は、従来の民法典の構成を大幅に変更し、内容面でも債務不履行の過失責任の原則の見直しに代表される大幅な改正や消費者契約法の内容を民法典に取り込むなど従前の民法典とは断絶した全面改正になる見通しである。

しかしながら、そもそも、法律実務や取引社会において、従来の民法典と断絶した全面改正を早急に必要とするような需要があるのか疑問である。

また、民法学会においても、複数の有力な民法学者が改正の基本方針そのものに対して強い疑問を提起している。

さらに、消費者契約法を民法典に取り入れる点も従前の民法の基本理念の修正につながる重要な問題であるにもかかわらず、消費者問題に取り組む法曹実務家や消費者団体等関係者の間でそのような改正の必要や方向性について十分な議論が尽くされているとは到底思われない。

今回の民法(債権法)改正は、2009(平成21)年3月31日に民法(債権法)改正検討委員会がまとめた「債権法改正の基本方針」が出発点になっている。同委員会は学者による研究会を標榜しながら、実際には法務省関係者が多数参加し、特定の方向での民法改正を指向する一部の学者と法務省関係者の強い影響力のもとに議論が進み、同委員会では法曹実務家や企業関係者・一般市民は審議に全く参加していない。

現在、法制審議会の民法部会の構成メンバーの約4分の3は、上記民法(債権法)改正検討委員会で特定の方向での民法改正を主張した学者とこれを支持する法務省関係者で占められており、公正な議論がなされているとは到底思われない。

民法典は国民の生活に密着した基本法典であり、時代に応じた改正の必要があるとしても、その改正にあたっては現在の民法典や判例・学説との連続性を考慮して真に時代に適合した使いやすい民法典でなければならないと考える。

そのためには、これまで特定の方向での改正を主導してきた学者や法務省関係者だけでなく、異なる意見をもつ学者、法曹実務家、企業関係者・一般市民等幅広い国民各層を代表する人々の意見を十分反映した審議が法制審議会においてなされなければならない。

以上の見地から、当会は法制審議会民法部会で現在なされている民法(債権法)改正審議をいったん白紙に戻し、委員の構成を公正なものに再編成して幅広い視点からの改正審議のやり直しを求めるものである。


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