奈良弁護士会

安全保障関連法案の廃案を求める会長声明

奈良弁護士会
会長 兒玉 修一

 

 安倍内閣は、本年5月14日、自衛隊法など既存の10法を一括して改正する「平和安全法制整備法案」と新法である「国際平和支援法案」(以下、両法案を併せて「本法案」という)を閣議決定し、翌15日に国会に上程した。

 本法案は、昨年7月1日に従前の政府解釈を変更して集団的自衛権行使等を容認した閣議決定を具体化したものであるが、それにとどまらず、本年4月27日に18年ぶりに改定された「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)を受けて、自衛隊が、世界中のどの地域でも米軍等に軍事的協力を行うことを可能にしている。これは、恒久平和主義の理念に立脚する憲法第9条を、憲法に定められた改正手続を経ることなく、法律によって、なし崩し的に変更するものである。

 しかも、本法案の具体的問題点は多岐に及んでいる。

 例えば、武力攻撃事態法と自衛隊法の改正案では、「存立危機事態」にあたれば、我が国が直接武力攻撃を受けていない場合であっても、防衛出動と武力の行使が可能とされている。しかし、これは、従前の政府解釈との連続性を欠いている。すなわち、従前の政府解釈は、「我が国が直接武力攻撃を受ける」という極限状態を想定し、その場合には、国民の生命・自由及び幸福追求権を守るために、必要最小限度の武力の行使が認められるというものであった。手続的に見ても、国会の例外のない事前承認は義務付けられていない上、そもそも「存立危機事態」の認定の基礎となる情報は「特定秘密保護法」により非公開とされる可能性が高い。したがって、この法案は、時の政権の恣意的運用を許し、歯止めのない集団的自衛権行使につながるものと言わざるを得ない。

 また、周辺事態法の改正案(重要影響事態法案)では、周辺という地理的概念をなくし、戦闘地域であっても現に戦闘が行われている現場以外は自衛隊の後方支援活動を可能として、活動領域についての限定をなくした。後方支援活動の内容も、従来の周辺事態法では禁止されていた米軍等への「弾薬」の提供や戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備を認めるなど、大幅に拡大しており、自衛隊員が戦闘に巻き込まれ、外国人を殺し、自衛隊員が殺される危険性は極めて高くなっている。その上、「敵国」からわが国への攻撃や日本人がテロの標的となる危険性を高めることになる。

 さらに、新法の国際平和支援法案では、我が国に対する危険性がない場合でも、国際社会の平和及び安全を脅かす事態であれば、現に戦闘が行われている現場以外での外国軍隊への協力支援活動を可能とするものであり、自衛隊の外国における活動及び武器使用の場面は際限なく拡大することになる。

 以上、本法案の内容を見ると、まさに憲法9条に違反するものであるとともに、本来、憲法改正によらなければならない事項について、法律の制定・改正のみで実現しようとすることは、憲法改正手続を僭脱するものであり、政府や国会の権限について憲法で制限を設けた立憲主義にも反する。

 当会は、このような憲法違反の立法を許すことはできない。
 よって、当会は、国会に対し、本法案をすみやかに廃案にすることを求めるとともに、政府に対し、本法案の前提となっている昨年7月1日の閣議決定の撤回を求める。


戻る