奈良弁護士会
会長 中西 達也
会長 中西 達也
- さる7月8日、大阪高等裁判所は、在日コリアンの子どもらが通学する京都朝鮮第一初級学校の付近において、「朝鮮人を保健所で処分しろ」、「スパイの子ども」、「日本から叩き出せ」、「ゴキブリ、ウジ虫、朝鮮半島へ帰れ」等と大音量で連呼して、在日コリアンに対するいわゆる「ヘイト・スピーチ」を行った団体及びその構成員らに対し、約1200万円という高額の損害賠償及び同校付近での街宣行為の差止めを命じる判決を一審京都地方裁判所に引き続いて言い渡した。
- このようなヘイト・スピーチは近年特に社会問題化しているところである。奈良県においても、2011(平成23)年、御所市の水平社博物館前において「穢多、非人、非人とは人間じゃないと書くんですよ。おまえら人間なのかほんとうに」、「穢多とは穢れが多いと書きます。穢れた、穢れた、卑しい連中、文句あったらねえ、いつでも来い」等と被差別部落出身者を差別・侮蔑する街宣活動が行われるという事件が発生した。そして、この街宣活動を行った者に対し、奈良地方裁判所は150万円の損害賠償を命じる判決を言い渡している。
そのような社会的状況の中、上記大阪高裁判決は、ヘイト・スピーチが憲法及びわが国も批准する人種差別撤廃条約の趣旨に照らして許されないと初めて明確に判断した点で、高く評価することができる。
- 特定の人種、民族や社会的地位等にある者に対する憎悪を表明し、差別を助長・煽動するヘイト・スピーチにつき、直接の法的規制、特に刑事罰を定めることが可能か、また、これをすべきかという点では、憲法上極めて重要な基本的人権とされている表現の自由の保障(21条1項)との関係で未だ様々な議論があるところである。
しかし、ヘイト・スピーチは、特定の人種、民族や社会的地位等にある者について、一律に差別し、その尊厳を否定し、罵倒して傷つけるものである以上、憲法が保障する個人の尊厳(13条)や法の下の平等(14条1項)に全くそぐわないこと自体は明らかである。 - したがって、ヘイト・スピーチは根絶されるべきであるが、そのためには、これを直接批判することに加え、ヘイト・スピーチが特に社会におけるマイノリティに対する差別意識に基づくものであることから、マイノリティが直面する種々の法的問題に対する救済や、子ども・市民に対する法教育の更なる広がり・深まり等も重要であり、当会にもこれに取り組む使命があると考える。
そこで、当会は、ここで改めて、ヘイト・スピーチに反対する態度を明らかにするとともに、あらゆる差別が根絶され、多様な個人がそれぞれ自分らしく共生できる社会を真に実現するために、当会及び各会員が様々な分野で引き続き努力していくことを、宣言する。
以上