奈良弁護士会

解釈による集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明

奈良弁護士会
会長 中西 達也

 

  1.  安倍晋三首相は、本年2月20日の衆議院予算委員会において、集団的自衛権行使容認に向けた憲法解釈の変更を「閣議決定する方向になる」と答弁し、閣議決定にて解釈変更を行う考えを明らかにした。しかし、以下に見るとおり、集団的自衛権の行使を容認することは、憲法の「解釈」としては不可能である。また、実際上、これを認めることは、平和国家としてのあり方を大きく変え、国民の将来を大きく左右することになる。
  2.   そもそも、多くの国の憲法に平和主義が規定され、国連憲章をはじめとする国際法において戦争の禁止が謳われるようになったのは、総力戦となった現代の戦争において「国家が勝つこと」に全てを集中する「戦争」が、最大の人権侵害であるとともに、立憲主義そのものを麻痺させる危険を有しているからである。その意味で、日本国憲法第9条の「戦争を放棄し、戦力を保持しない」という徹底した恒久平和主義は、平和への指針として世界に誇りうる先駆的意義を有するものである(当会の平成18年5月20日総会決議)。
     
    従前の政府解釈にあっても、「自衛隊」は「軍隊」ではなく、9条の存在を前提にしたものであるとされてきた。その論理は、要するに、9条とて、国民の生命・財産が外部からの武力攻撃によって侵害される状況となったときには、国家固有の自衛権の行使として、それを排除するために必要最小限度の実力の行使をすることを否定するものではなく、そのための実力組織(自衛隊)を保有することを禁じるものではない、というものである。
     
    だが、そのことは、論理必然的に、自衛隊には、それ以上の活動が憲法上許されないことを意味する。それゆえ、自衛権発動の要件として、(1)わが国に対する急迫不正の侵害があること、(2)この場合にこれを排除するためにほかの適当な手段がないこと、(3)必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと、という「3要件」が必要とされる。また、他国の領土、領海、領空における武力の行使も、自衛のための必要最小限度を超えるものであり、許されないとされる。
     
    このように、憲法9条は制限規範として、党派を超えて大きな意義をもっている。そして、わが国は、これを遵守してきたからこそ、「戦争をしない国」として、国際的信用を得ることができた。
     
    集団的自衛権についても、政府は、昭和56年(1981年)、これを「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」と定義し、このような集団的自衛権は、わが国を防衛するための必要最小限度の範囲を超えるため、わが国は、憲法上行使できないと答弁している。これは、自衛隊の活動に関する政府の憲法解釈を踏襲した、当然の結論である。
  3.  従って、集団的自衛権の行使を認めるのであれば、少なくとも憲法96条に定められた手続により、国民投票によって国民の賛同を得なければならない。それを無視して、閣議決定のみにより、解釈の名の下に実質的な改正を行うことは、国民主権原則に真っ向から反する。
  4.  また、憲法の基本理念たる立憲主義の観点から見ても、一内閣による「解釈」によって集団的自衛権の行使を容認することは、容認できない。
     
    そもそも憲法は、「すべての人々が個人として尊重されるために、最高法規として国家権力を制限し、人権保障をはかる」という「立憲主義」を基本理念とする(当会上記総会決議)。
     
    すなわち、憲法は権力制限規範であることに、その存在意義がある。また、現憲法下では、憲法解釈の権限は最高裁判所にある。時々の内閣が憲法を恣意的に「解釈」し、その制限を免れることが許されるならば、憲法はその存在価値を失ってしまう。
     
    上記のように、憲法9条は、権力者に対して集団的自衛権の行使を禁止している。それを、内閣が公然と無視することは、こと9条の問題に限らず、憲法の存在意義ひいては法治国家としてのあり方そのものを危うくする。
  5.  以上の点を意識して、集団的自衛権の行使は日本の安全保障に大きな影響を与える場合等に限って容認することとし、個別の事例ごとに是非を判断すべきであるとの意見もある。しかし、従前の憲法的制約と異なるいかなる「限定」を加えようとも、それは従前の要件に比して曖昧にならざるを得ず、しかも一内閣の閣議決定に過ぎないのであって、実効性を欠く。さらに、場面を「限定」したところで、それが集団的自衛権の行使である以上、現憲法の規定との法的整合性を説明することは不可能である。
  6.  戦後、わが国は、9条を遵守し、一度たりとも戦争をせず、「平和国家」としての信用を築いてきた。ところが、正規の手続にもよらず、「解釈」により集団的自衛権の行使を容認することは、従前の「解釈」が誤っていたと宣言するに等しい。それは、北東アジアの政治的・軍事的緊張を高め、かえって、わが国の安全を損ねるとともに、従前築いてきた国際的信用を大きく損ねるものである。
  7.  よって、当会は、解釈による集団的自衛権の行使容認に強く反対するものである。

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