奈良弁護士会

司法修習生に対する給費制の復活を求める会長声明

奈良弁護士会
会長 以呂免  義雄

 

  1.  裁判所法67条1項は、法曹(弁護士、裁判官、検察官)資格を得るために、司法試験に合格した後、1年間の司法修習を経ることを定めている。司法修習は司法の現場で実際の事件に携わることにより、法曹となるための基本的な知識・技法のほか、法曹倫理、識見等を身に付けることを目的としており、そのために裁判所法67条2項では「司法修習生は、その修習期間中、最高裁判所の定めるところにより、その修習に専念しなければならない」という修習専念義務を定めている。
    我が国では、戦後長い間、この修習専念義務を実質化し、質の高い司法の担い手を育成するために、司法修習生に対し、医療保険や年金制度を含む身分保障を与え、司法修習期間中の生活費等の必要な資金を国費から支給する、いわゆる給費制をとってきた。
  2.  しかるに、国は、多くの弁護士会や一般国民からの強い反対を押し切り、将来年間3000人合格とすることによる財政負担を理由に、2011年11月から修習を始めた65期の司法修習生以降,給費制を廃止するとともに、修習資金を貸与することができるように裁判所法の改正を施行した(裁判所法67条の2)。しかしその後、合格者数について、国は3000人目標を撤回し、現在年間約2000人で推移しており、貸与制移行への根拠はなくなったと言わなければならない。
  3.  日弁連が63期司法修習予定者に対して行ったアンケート調査では、法科大学院在学中に奨学金や教育ローンを利用した人は51.2パーセントに及んでいる。また、65期司法修習生に対して行ったアンケート調査では、司法修習生になることを辞退しようと考えたことのある人は28.1パーセントに達し、その理由として貸与制を理由に挙げた人が86.1パーセントにのぼっている。
    この調査結果から窺われるように、経済的に余裕のある人しか、法曹の道を選べなくなっている。それにもかかわらず、貸与制が今後も継続されるとなれば、法曹志願者数が減少し、有意かつ優秀な人材の確保が困難となって、ひいては司法制度を危うくすることになる。
     
    そして、司法制度は人権保障の砦として個人の尊厳を実現する極めて重要な役割を担っており、これを支えるのは法曹であることに照らすと、法の支配を実現するのに必要なインフラである法曹の養成を国費で賄うのは国の当然の責務である。
  4.  ところで、医師も法曹も、高度な専門知識や経験、倫理を必要とする専門職である。そして、国は、医師になるための専念義務を課された研修医に対し、医療機関が研修医に支払う給与について国費からその一部を補助金として支給している。然るに、国が司法修習生に対し給費制であったのを貸与制に切り替えたのは、不公平、不合理な政策であり到底許されない。
  5.  以上の次第で、全国に配属される司法修習生が経済的不安を負うことなく修習に専念できるよう、速やかに給費制を復活すべきである。

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