奈良弁護士会

民事法律扶助業務運営細則20条1項4号の改正を求める意見書

2022年(令和4年)2月21日

日本司法支援センター 御中

奈良弁護士会
会長 中村 吉孝

第1 意見の趣旨

 民事法律扶助業務運営細則20条1項4号について,少なくとも生活保護利用者を適用対象から除外するよう改正を求める。

第2 意見の理由

  1.  規定の内容・目的
     民事法律扶助業務運営細則20条1項4号(以下「本件細則」という)が改正され,令和3年11月1日から施行された。
     本件細則に基づき,同日以降の新規の代理援助又は書類作成援助の申込み(以下「代理援助申込等」という)を行う申込者(生活保護利用者を含む)は,審査の際に,自動振込利用申込書兼預金口座振替依頼書(以下「口座登録用紙」という)及び口座情報が記載された書類(以下「口座情報記載書類」という)の各提出を求められることになった(以下「口座登録用紙」と「口座情報記載書類」を併せて「口座登録用紙等」という)。本件細則の改正前は,口座登録用紙は援助開始決定後に割賦償還の決定がなされた被援助者が提出を行っており,口座情報記載書類の提出は不要であった。生活保護利用者においては,口座登録用紙及び口座情報記載書類のいずれの書類の提出も不要とされていた。
     令和3年10月13日付け日本司法支援センター作成の「契約弁護士・司法書士の皆様へ」と題する通知文によると,本件細則の改正目的に関し,「口座情報の記入ミスに起因する遅れ等による引落不奏功を防ぐ」こととされている。
  2.  本件細則は目的との間で合理的関連性がない
     生活保護利用者については,地方事務所長によって,事件進行中の期間における立替金の償還を猶予することができ,また,終結決定後に生活保護を利用する場合は,理事長が立替金の償還未済額の償還の免除を決定することができるとされ,実際,ほとんどのケースにおいてその様に運用されている。
     つまり,生活保護利用者については立替金の償還猶予及び償還免除が原則的に予定されている者であるといえる。従前,生活保護利用者においては,口座登録用紙の提出さえも不要とされていたのはそれが理由である。そのような者に対して,一律,援助申込等の際に口座登録用紙等を提出させるという手段をとったとしても,ほとんど意味がない。
     事件進行中に生活保護利用者が何らかの理由で生活保護が廃止されることになった場合,その者については,立替金の償還義務が現実に生じる可能性が存するが,そのようなケースは極めて少数である。
  3.  本件細則に相当性はなく却って弊害が大きい
     生活保護利用者は,その背景において,高齢,身体的・精神的障害など様々なハンディを抱えていることが多く,通帳を作成しコピーをするという一見軽微にも見える手続きの負担であっても,その者にとっては多大な負担となり得ることについて,思いを致さなければならない。
     そして,このような状況は,「裁判その他の法による紛争の解決のための制度の利用をより容易にする」(総合法律支援法第1条)という同法本来の目的の実現も阻害しかねないものである。
     また,いわゆる「持ち込み」として,代理援助申込等を支援しようとする弁護士にとっても,申込者から徴求すべき資料が多くなるということになり,実益のない負担が大きくなる。
  4.  本件細則の改正手続きも問題がある
     本件細則の改正は,民事法律扶助制度の利用者はもちろんとして,援助申込等に係る弁護士・司法書士など多数の関係者に影響を及ぼす極めて重要な改正である。したがって,本来であれば関係者から広く意見聴取を行った上で,改正の是非を検討すべき事柄であった。しかし,現実には,十分に意見を聞くこともないままに,到底合理的でない本件細則が施行されるに至っている。

第3 結語

 民事法律扶助制度は,経済的に困窮する市民を対象としており,社会福祉的な側面が存することから,本来給付制度が採用されるべきであった。しかし,結果として,本邦においては,償還制度が採用されることになっているものの,償還金の回収を過度に重視することとなってしまえば,「裁判その他の法による紛争の解決のための制度の利用をより容易にする」という,同法本来の目的が没却されかねない。
 よって,本件細則について,少なくとも生活保護利用者を適用対象から速やかに除外するよう改正を求める。

以上


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