奈良弁護士会
会長 中西 達也
会長 中西 達也
第1 意見の趣旨
当会は、商品先物取引法施行規則102条の2の改正に強く反対する。
第2 意見の理由
- 経済産業省及び農林水産省は、平成26年4月5日、「不招請勧誘規制に係る見直し」として、商品先物取引法第214条第9号の不招請勧誘禁止の例外を定める同法施行規則第102条の2の改正案を公表した。この改正案は、不招請勧誘の禁止の例外を、リスクが高い取引の経験者に対する勧誘に加え、熟慮期間等を設定した契約の勧誘(顧客が70歳未満であること、基本契約から7日間を経過し、かつ、取引金額が証拠金の額を上回るおそれのあること等についての顧客の理解度を確認した場合に限る)にも認めようとするものである。
- しかし、このような改正は、法が個人顧客に対する無差別的な訪問電話勧誘を禁止した趣旨を没却するものと言わざるを得ず、また、平成24年8月21日付産業構造審議会商品先物分科会報告書に反し、到底容認することはできない。
- 商品先物取引についての不招請勧誘禁止規制は、商品先物取引業者が不意打ち的な勧誘や執拗な勧誘により、顧客の本来の意図に反した取引に引き込み、多くの被害を生んできたという歴史的な事実を踏まえ、消費者・被害者団体等の長年にわたる強い要望が積み重ねられた結果、ようやく、平成21年の商品先物取引所法改正により実現したものである。
商品先物取引についての不招請勧誘禁止規制の導入により、商品先物取引に関する苦情件数は激減している。商品先物取引被害を防止するための手段として、不招請勧誘の禁止が極めて有効であることは明白である。
ところが、今日においても不招請勧誘禁止を潜脱する業者の勧誘により消費者が被害をうける事例が、なお相当数報告されている。
商品先物取引に係る消費生活相談の半数以上は70歳未満の契約者についてのものであり、改正案は商品先物取引の不招請勧誘禁止規制を大幅に緩和し、事実上解禁するに等しいものである。また、上記7日間の熟慮期間の設定については、かつての海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律に類似規定が設けられていたものの、同法律は顧客保護のためには全く機能しなかったことに留意する必要がある。
上記のような改正がなされれば、知識経験が十分ではない個人投資家が取引に巻き込まれ、従前のように、商品先物取引業者に消費者被害を多数生み出す機会を与えることになりかねず、多大な被害が発生することが懸念される。この点、当会は、平成26年2月14日、「商品先物取引の不招請勧誘禁止規制撤廃に反対する会長声明」を発表し、商品先物取引について不招請勧誘禁止規制を撤廃することに反対するとともに、金融商品取引法施行令には商品関連市場デリバティブ取引を追加することを求めている。
なお、商品先物取引法施行規則改正案に合わせて意見募集がなされている商品先物取引業者等の監督の基本的な指針の改正案では、そのⅡ-4-2(4)②イにおいて、「年金等生活者への勧誘」、「習熟期間を経過しない者への勧誘(最初の取引を行う日から90日を経過する日までの間における、取引証拠金等の額が投資可能資金額の3分の1を超える取引の勧誘)」が不適当な勧誘として追加されているが、こうした規制は、従来の「商品先物取引の委託者の保護に関するガイドライン」においても、適合性の原則の観点から、商品先物取引未経験者の保護措置に関する規定として盛り込まれていたものであり、不招請勧誘による顧客であるか否かを問わず、当然に設けられるべきものであるから、契約締結前の不招請勧誘の禁止 を緩和する理由となるものではない。 - また、内閣府消費者委員会も、平成26年4月8日付意見書において「このような改正案が、消費者保護の観点から見て、重大な危険をはらむものであることに鑑み、かかる動向を看過することができず、深く憂慮し、その再考を求めるものである」としている。
- 平成24年2月から6月にかけて開催された産業構造審議会商品先物分科会において、不招請勧誘禁止規制を見直すことが議論された。その結果、平成24年8月12日付上記分科会報告書で、「不招請勧誘禁止の規定は施行後1年半しか経っておらず、これまでの相談・被害件数の減少と不招請勧誘の禁止措置との関係を十分に見極めることは難しいため、引き続き相談・被害の実情を見守りつつできる限りの効果分析を試みていくべきである」、「将来において、不招請勧誘の禁止対象の見直しを検討する前提として、実態として消費者・委託者保護の徹底が定着したと見られ、不招請勧誘の禁止以外の規制措置により再び被害が拡大する可能性が少ないと考えられる等の状況を見極めることが適当である」とし、商品先物取引についての不招請勧誘規制を維持することが確認された。
それにも関わらず、平成24年8月12日付け上記分科会報告書が発表されてから間もない現時点において、何らの検証もなく、上記のような改正を行うことは極めて不適切である。 - よって、当会は、商品先物取引法施行規則102条の2の改正に強く反対する。