わが国の消費者政策の基本的方向性と国および地方公共団体の消費者行政の枠組みを規定する消費者保護基本法につき、35年ぶりの改正へ向けた検討作業が現在進められ、本通常国会において上程される見込みである。
消費者保護基本法の改正は消費者政策の根幹に関わる重要な問題であると考えるので、当会としては、上記改正に関し、以下のとおり意見を述べる。
- 消費者の権利擁護を消費者政策の理念に明記し、社会権としての「消費者の権利」を具体的に列挙すべきである。
(理由)
国民生活審議会消費者政策部会は、2003年5月に「21世紀型の消費者政策の在り方について」との報告書(以下、「報告書」という。)を取り纏めた。報告書においては、消費者の権利を掲げるべきであるとしながらも、一方で、消費者を「自立した主体」と位置づけ、「消費者の権利は、保護によって与えられるものではなく、消費者が自ら実現に努めるべきものである。」とする。消費者が「自立した主体」と位置づけられ、また、その権利が明確にされることは当然であるものの、「自立した主体」が消費者の「自己責任」の根拠としてのみ用いられることは許されず、歴然として現存する消費者と事業者間における情報・交渉力・経済力等の格差に鑑みれば、消費者政策の理念はあくまでも消費者の権利擁護にあるべきである。そして、消費者が名実ともに「自立した主体」として能動的に行動するためには、「消費者の権利」が明確にされることが不可欠である。
報告書においては、消費者の権利の具体的内容として(1)提供される商品役務に関し安全を確保される権利、(2)消費行動に必要な情報を得る権利、(3)商品役務について適切な選択を行う権利、(4)消費活動による被害の救済を受ける権利、(5)消費者教育を受ける権利、(6)消費者政策に意見を反映させる権利、を挙げるが、これら権利を消費者保護基本法の中で具体的に列挙すべきである。
さらに、消費者が自らの利益となる選択を行いうるためには、情報を提供される権利や選択の権利が確保されるのみでは不十分であり、公正な取引条件と取引方法がその前提として必要であるとの観点から、(7)公正な取引条件および公正な取引方法を提供される権利、消費者が個別に消費者政策に対して意見を反映させることが困難であるとの観点から、(8)消費者団体を組織し行動する権利、をも同様に消費者基本法の中で具体的な権利として列挙されるべきである。
- 国および都道府県による消費者被害の苦情処理・紛争解決機能を強化すべきである。
(理由)
現行法においては、苦情処理の第一次的役割が市町村にあるものと規定され、国および都道府県はその基盤整理として必要な施策を講ずるように努める旨規定されている(第15条)。そのため、全国各地においては都道府県の消費者生活センターの統廃合が進められ、また、国においては国民生活センターの直接相談を廃止する動きなどが進んでいる。しかしながら、消費者問題の複雑化・多様化・広域化が進む中で、これら消費者問題に対応するためには、国および都道府県における苦情処理・紛争解決機能を強化することが求められる。
また、事業者と消費者との間の情報・交渉力の格差を踏まえ、実質的に公正な解決を図るためには、民間型ADRをより公正なものとするとともに、行政型ADRの整備も積極的に進められるべきであり、この点も消費者保護基本法上に明記されるべきである。
- 契約適正化の施策を規定すべきである
(理由)
近年、消費者契約に関する被害が多発しているが、これら契約被害の実態をみると、不正確または誤った情報提供により消費者を誤認させて契約を締結させたり(マルチ商法、内職商法など)、複雑な契約条件について消費者に対しての情報提供が不十分な状態で契約させたり(証券・保険契約などにおける説明義務違反)、消費者の判断力不足に乗じて契約させたり(高齢者被害など)、消費者の冷静かつ自発的な判断を妨げる方法により契約させたり(訪問販売、電話勧誘販売、商品先物取引など)、消費者の平穏を妨げる方法により広告・勧誘を展開したり(訪問販売、インターネット通販など)という、契約締結過程における問題が多数を占める。また、取引条件においても、複雑な契約条項の中に消費者に不利な条項を盛り込むもの(継続的役務提供契約、会員権契約、保険契約など)、消費者の窮状や知識不足に乗じて不当な取引条件を盛り込むもの(高金利貸付、過剰与信など)などによる被害も深刻である。これら被害実態に鑑みれば、単に形式的に情報が提供され、また消費者に選択権が与えられていることでは足りず、消費者の理解力に照らして容易に理解できる方法で情報提供すること、さらに、提供される取引条件が内容的にも公正なものであることを確保することが不可欠である。
- 統一的な消費者行政組織を構築すべきである。
(理由)
わが国の消費者行政は、分野別の産業育成省庁が付随的に消費者保護権限を持ち、これを行う体制であったことから、消費者政策の統一性・実効性・迅速性に欠けるところが大であった。消費者の権利が実質的に実現するためには、総合的かつ実効性のある消費者政策の企画・立案・推進の体制を整備する必要があり、本来であれば「消費者庁」の設置が望まれるところであるが、仮にそれが直ちには困難であったとしても、被害情報に基づく迅速な被害救済と総合的な被害防止に向けて、専門的かつ統一的な行政組織を構築すべきである。