奈良弁護士会

交通事故の示談

相談者の模擬事例をご覧頂けます。

交通事故に遭い、保険会社が申し入れてきた保険金に
納得できなかったが裁判に至らず解決できた

私は、スーパーにパート勤務する35才の女性ですが、平成28年秋、交差点で停止していた私のバイクに後から来た乗用車が追突し、私は路上に転倒して、足に大きな怪我をしました。20日間入院した上、100日以上も通院したのですが、足が自由に動かないままで、結局、病院からはこれ以上治療しても良くはならない、と言われ、後遺症が残りました。

加害者の保険会社は、加害者に代わって示談の交渉に来ていましたが、平成30年7月になって、私の損害総額が520万円で、既払額200万円を差し引いた320万円を支払う、との示談案を示してきました。損害のうち、治療費・通院交通費・入院雑費などの額には異論がなかったのですが、治療に長い時間がかかったにしては慰謝料が少ないこと、勤めを休まなければならなかった損害や、足が自由に動かないという後遺症によって今後の仕事にも影響が出ることの損害(逸失利益)がパートの安い給料で計算されていること、後遺症についての慰謝料が計算されてないことに不満がありました。

奈良弁護士会に出向き、窓口でそのことを話すると、事務員が「交通事故の示談あっ旋」の手続(注1)について説明してくれました。

示談あっ旋は、「公益財団法人日弁連交通事故相談センター」というところが扱っており、奈良弁護士会にもこの相談センターの奈良県支部があって、弁護士が中立の公正な立場で話し合いによる解決のために尽力してくれることを知りました。窓口で早速その申込みをしました(注2)。申込みの費用は、無料でした。

示談あっ旋の申込みをすると、すぐに全部の事件が示談あっ旋をしてもらえる訳ではありません。相談センターの弁護士による無料交通事故相談を受け、事件が示談あっ旋になじむかどうかを判断してもらうことが必要です(注3)

幸い、私の件は、示談あっ旋に適する事件だとのことで、正式に「示談あっ旋の申出」を受理してもらうことができました。それでも相手方が示談あっ旋に同意しないと、せっかく申出が受理されても手続が進められないのですが、この点も幸い、相手方が同意したそうで、示談あっ旋期日が指定されました。

示談あっ旋期日には、相手方の保険会社の担当者が来ました。弁護士会館の相談室で、示談あっ旋の担当弁護士の前に坐って、お互いの言い分について説明しました。

担当弁護士は、私の不満の点に関係して、保険会社の担当者にいろんな質問をしてくれ、担当者が会社の顧問弁護士と相談したうえで次回に回答するということで、第2回目の期日が決まりました。

第2回目の期日には、保険会社の顧問弁護士が来て、示談あっ旋の担当弁護士と問題の項目について逐一検討して、意見を交換し、次の期日までに保険会社から修正案が提出されることになりました。

第3回目の期日に、保険会社から事前に出された修正案を見ました。修正案では、休業分の損害、治療に関する慰謝料、後遺症による逸失利益がいずれも増額されていました。また、後遺症についての慰謝料が新たに計算されていました。

結局、私の損害総額が800万円で、既払額200万円を差し引いた600万円を支払う、との修正内容で、私としては満足してよい案でした。担当弁護士の方で用意されていたあっ旋案の原案も、この修正案にかなり近いものであったようです。

その日のうちに、加害者は、被害者の私に対し、今度の交通事故による損害賠償金として既払金200万円のほかに630万円を支払う、との示談が成立しました。専門家である弁護士の関与によって、筋道の通った話合いができ、短い期間の間に、すっきりとした解決ができたので、私は、この示談あっ旋の制度を多くの人々に知って、利用して貰いたいと思います。

 


 

(注1) 示談あっ旋というのは、交通事故の損害賠償の交渉で相手方と話し合いがつかない場合、示談あっ旋の弁護士が間に入り双方の言い分を十分聞き、公正・中立な立場で裁判例などを基に事案に応じ相当な示談案を示して早期に適正な示談が成立するようお手伝いをする制度です。

(注2) 示談あっ旋の申立が可能な事案は、
a 自賠責保険又は自賠責共済に加入することを義務づけられている車両による『自動車』事故事案に限ります。
b 人身事故又は人身及び物損事故の事案は、加害者が任意保険や共済保険に加入している、していないは問わず申立が可能です。
c 物損事故のみの事案については、加害者が『自家用自動車総合保険』(SAP)か共済保険に加入している場合に限ります。

(注3) 示談あっ旋は、担当者が示談案を呈示するものですから、被害者において人身事故の場合は症状固定に至っており、後遺症の有無・等級及び被害者の過失割合に殆ど争いがなく、損害額の算定が可能な状態に至っている事案であることが必要です。