奈良弁護士会

住民基本台帳ネットワークシステムの稼働の延期等を求める決議

  奈良弁護士会

 

1999年8月に住民基本台帳法が改正され、本年8月より住民基本台帳ネットワークシステム(以下、「住基ネット」という)が稼働されることとなっている。住基ネットとは、住民基本台帳上、各国民に住民票コード(11桁の番号)を付け、住民票コードと本人確認情報(氏名、性別、生年月日、住所)を各都道府県、市区町村を結んだコンピュータネットワーク上で流通させ、全国何処ででも本人確認を可能とさせるシステムである。

しかし、行政機関が、何らの制約もなく国民に関するデータを蓄積すれば、行政機関間のデータの共有、データの目的外流用等により、当該個人のあずかり知らないところで行政機関が個人データを集積し、国民一人一人を管理監視する事態が生じる高度の危険性がある。現に、住民票コードと同様の共通番号制を導入したスウェーデンの個人情報濫用監視機関であるデータ検査院の院長が1996年に来日した際、「このシステムを日本に導入することは勧めない。多くの国民がこのシステムを導入したことを後悔している。個人認識番号システムは、気付かないうちに我々を腐敗させプライバシーに対する脅威のシンボルとなった。」と証言している。

また、ネットワーク上の情報には、必ず不正流出の危険がつきまとう。ところが、日弁連の調査によれば、過半数の自治体が住基ネットの管理等を担当する専任職員を置いておらず、担当職員も必ずしもコンピュータに精通している訳ではなく、住基ネットのマニュアルを完全に理解していると答えた自治体は3%しかない。このような状態では、住基ネットのセキュリティ保護に多大な不安を抱かざるをえない。

1999年の住民基本台帳法改正時には、かかる危険に鑑み「この法律の施行に当たっては、政府は、個人情報の保護に万全を期するため、速やかに所要の措置を講ずるものとする。」との附則が定められた。当時の小渕首相によれば、この措置とは個人情報保護法制の制定を指す。すなわち、個人情報保護法制の制定が、住基ネット稼働の前提となっているのである。

ところが、現国会において、政府与党は行政機関の保有する個人情報保護法案の成立を既に断念している。そうであるにもかかわらず、政府は、本年8月5日より住基ネットを稼働させる予定を変えていない。個人情報保護法制を整備せずに住基ネットを稼働させることは、稼働の前提を欠き、上記の危険を顕在化させる暴挙であって、絶対に許してはならないことである。

よって、奈良弁護士会は、個人情報保護に万全を期した法制度、人的物的制度が整備されるまで住基ネットの稼働を延期すべきと考える。また住基ネット自体について、その廃止をも含めた再検討を求める。


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