現在、衆議院憲法審査会では、大規模災害や戦争等の緊急事態時においても国会の権能を維持するためとして、内閣の発議及び衆参両議院の特別多数の議決により、国会議員の任期の延長を可能(再延長も可能)とする等の憲法改正を求める意見が出されている。
しかし、憲法は衆議院議員の任期を最長4年(45条)、参議院議員は6年と定めている(46条)。そして、「任期」には、立憲主義の精髄ともいうべき権力分立の観点から重要な意味がある。すなわち、権力分立は、三権分立のみならず、様々な局面で問題となるが、任期制は権力の時間的分割の観点から重要な意義を有する。永続的に権力保有が保障されていると、当該権力は腐敗しやすくなる。それを防ぐために権力保有者の任期を限定することにより、当該権力を統御しようとするのが「任期制」であり、国権の最高機関である国会の議員について任期が定められているのもそれゆえである。然るに、議院内閣制をとるわが国においては、内閣と両院において特別多数を有する会派との緊張関係が薄いため、内閣と衆参両議院の議決だけで任期延長が可能な上記新制度の導入は、両院において特別多数を有する会派による「緊急事態」を口実にした濫用のリスクを免れない。
また、憲法は、公務員の選定罷免権を国民固有の権利であると規定し(15条1項)、国会の両議院は全国民を代表する選挙された議員でこれを組織すると定めている(43条1項)。すなわち、任期制は、国民の選挙権を保障するとともに、議院の権能の民主的正統性を裏付けるものである。上記の新制度は、国民の選挙権を不当に制約し、議院の権能の正統性を揺らがすリスクをもはらむ。
もともと、憲法には、衆議院解散時における参議院の緊急集会(54条2項)の制度が設けられている。それを柔軟に活用することにより、緊急事態時に国会不在となることは防ぐことができる。また、憲法が想定する参議院の緊急集会の期間(最大70日)を超えて、選挙を実施することが不可能となる事態は通常想定しがたいし、まず検討されるべきは、その期間内に選挙を実施できるような現憲法下での法令の整備である。任期延長の制度は弊害の方が大きいと言わざるを得ない。
以上より、当会は、緊急事態時に国会議員の任期延長を認める憲法改正に反対する。
2024年(令和6年)2月26日
奈良弁護士会
会長 山 口 宣 恭