2023年(令和5年)11月27日
内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全) 自見 はなこ 殿
経済産業大臣 西 村 康 稔 殿
消費者庁長官 新 井 ゆたか 殿
内閣府消費者委員会委員長 鹿 野 菜穂子 殿
衆議院議員 馬 淵 澄 夫 殿
衆議院議員 小 林 茂 樹 殿
衆議院議員 高 市 早 苗 殿
衆議院議員 田野瀬 太 道 殿
衆議院議員 奥 野 信 亮 殿
参議院議員 堀 井 巌 殿
参議院議員 佐 藤 啓 殿
奈 良 弁 護 士 会
第1 意見の趣旨
当会は、国に対し、特定商取引法平成28年改正における附則第6条に基づく「所要の措置」として、以下の内容を含む抜本的に法改正等を行うことを求める。
- 訪問販売・電話勧誘販売について
- 拒否者に対する訪問勧誘の規制
訪問販売につき、家の門戸に「訪問販売にお断り」と記載された張り紙等を貼っておくなどの方法によりあらかじめ拒絶の意思を表明した場合が、特定商取引法第3条の2第2項の「契約を締結しない旨の意思を表示した」場合に該当することを法令において明らかにすること。 - 拒否者に対する電話勧誘販売の規制
電話勧誘販売につき、特商取引法第17条の規律に関し、消費者が事前に電話勧誘販売を拒絶できる登録制度を法的に整備すること - 勧誘代行業者の規律
訪問販売及び電話勧誘販売につき、その契約の締結の媒介又は代理の業務の委託を受けた者(いわゆる勧誘代行業者)に対しても、特定商取引法上の行為規制が及ぶことを法令において明らかにすること。 - 販売業者等の登録制
訪問販売及び電話勧誘販売を行う者は、国又は地方公共団体に登録をしなければならないと法令で定めること。
- 拒否者に対する訪問勧誘の規制
- 通信販売について
- インターネットを通じた勧誘等による申込み・契約締結について行政規制、クーリング・オフ及び取消権
通信販売業者がインターネットを通じて消費者を勧誘し、消費者が申込みを行い又は契約を締結した場合について、法令において、行政規制を設けること、並びに消費者によるクーリング・オフ及び取消権を認めること。 - インターネットを通じた通信販売における継続的契約の中途解約権
インターネットを通じた通信販売契約による継続的契約について、法令において、消費者に中途解約権を認めること及び中途解約の場合の損害賠償の額の上限を定めること。 - 解約・返品に関するインターネット通信販売業者の受付体制整備義務
通信販売業者がインターネットを通じて申込みを受けた通信販売契約について、契約申込みの方法と同様のウェブサイト上の手続による解約申出の方法を認めること及び迅速・適切に解約・返品に対応する体制を整備することを法令において義務付けること。 - インターネット広告画面に関する規制の強化
インターネットの広告画面及び申込画面において、契約内容の有利条件や商品等の品質・効能の優良性を殊更に強調する一方、有利性や優良性が限定される旨の打消し表示が容易に認識できないものを特定商取引法第14条第1項第2号の指示対象行為として具体的に禁止すること。また、広告表示において事業者が網羅的で正確かつ分かりやすい広告を行うこと(広告表示における透明性の確保)を法令等で明確化すること。 - インターネットの表示を中止した場合の行政処分
通信販売業者が不当なインターネット広告の表示を中止した場合であっても、行政処分(指示処分及び業務停止命令)が可能であることを、法令において、明示すること。 - 広告・申込画面、広告・勧誘動画の保存・開示・提供義務
通信販売業者がインターネット上で契約の申込みを受けた場合、消費者が申込み過程で閲覧した広告や勧誘過程の動画を一定期間保存する義務及び消費者に対して保存内容を提供する義務を法令で定めること。 - 連絡先が不明の通販事業者及び当該事業者の勧誘者等を特定する情報の開示請求権(詐欺等加担者情報開示請求権)
特定商取引法第11条第5号及び同法施行規則第8条第1号の表示義務を満たさない通信販売に関する広告又はインターネット等を通じて行った勧誘により自己の権利を侵害されたとする者は、SNS事業者、プラットフォーマーその他の関係者に対して、通信販売業者及び勧誘者を特定する情報の開示を請求できることを法令において定めること。 - 適格消費者団体の差止請求権の拡充
適格消費者団体の差止請求権について、前記⑴から⑷までの行政規制等に違反する行為等を請求権行使の対象に追加すること、及び⑸の場合に差止請求権行使の対象となる旨を明示することなどを法令に定めて、その拡充を行うこと。
- インターネットを通じた勧誘等による申込み・契約締結について行政規制、クーリング・オフ及び取消権
- 連鎖販売取引等について
- 連鎖販売業に対する開業規制の導入
連鎖販売取引について、国による登録・確認等の事前審査を経なければ、連鎖販売業を営んではならないとする開業規制を法令で定めること。 - 後出し型連鎖販売取引の適用対象への追加
特定利益収受の契約条件を設けている事業者が、連鎖販売取引に加入させることを目的として、特定負担に係る契約を締結させ、その後に当該契約の相手方に対し特定利益を収受しうる取引に誘引する場合は、特定商取引法の連鎖販売取引の拡張類型として規制が及ぶことを法令において明確にすること。 - 不適合者に対する紹介利益提供契約の勧誘等の禁止
物品販売又は役務提供による対価の負担を伴う契約をした者が次のいずれかに該当する場合は、その者との間において、新規契約者を獲得することにより利益が得られることを内容とする契約の勧誘及び締結を禁止行為として法令で定めること。- 22歳以下の者
- 先行する契約として投資等の利益収受型取引の契約を締結した者
- 先行する契約の対価に係る債務(その支払のための借入金、クレジット等の債務を含む)を負担している者
- 連鎖販売取引における特定利益の計算方法等の説明義務の新設
連鎖販売取引について、収受し得る特定利益の計算方法等を特定負担に関する契約を締結しようとする者に説明する義務を法令において定めること。 - 連鎖販売取引における業務・財務等の情報提供義務の新設
連鎖販売取引について、業務・財産の状況等に関する情報を特定負担に関する契約を締結しようとする者や加入者に開示する義務を法令により定めること。
- 連鎖販売業に対する開業規制の導入
第2 意見の理由
- はじめに
- 特定商取引法平成28年改正と5年後見直し
特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)は、訪問販売等消費者トラブルを生じやすい特定の取引類型を対象に、事業所による不公正な勧誘行為等の取締り等を行う法律である。
これまで同法は幾度も改正が繰り返されてきたが、2016年の改正(以下「平成28年改正」という。)の附則第6条に「政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律による改正後の特定商取引に関する法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」とのいわゆる5年後見直しが定められている。同改正法の施行が2017年12月1日であり、昨年12月に施行から5年度が経過した。 - 特定商取引法関連のトラブルの実情と同法の抜本的見直しの必要性
奈良県が公表している令和3年度県消費行政の概要(Ⅳ奈良県消費生活センターにおける消費生活相談の概要(令和2年度))によると、令和2年度に奈良県の消費生活センターに寄せられた消費生活相談は4745件であり、増加傾向にある。
そして、このうち特定商取引法分野に関する相談は、全体の54%という高い比率を占めている。
特定商取引法の対象取引分野のうち、訪問販売・電話勧誘販売に関する相談は、全体の10%となっているものの、その年代別内訳でみると、60代以上の高齢者が、訪問販売につき49.1%、電話勧誘販売につき53.9%と圧倒的な多数を占めている。このことから、超高齢社会において判断力の衰えた高齢者が悪質商法のターゲットにされていることがうかがわれ、今後は更にこの傾向が強まると懸念される。
また、通信販売に関する相談が全体の41.8%と最多になっており、インターネット、スマートフォンの普及に伴い、インターネットを通信手段とする通信販売が主流となっていることからすると、インターネット通販におけるトラブルが増加していることが見て取れる。この傾向はデジタル社会の更なる進展とともに、今後更に強まると思われる。
他方、マルチ取引は全体の0.8%にすぎないものの、その年代別内訳は10歳代、20歳代で合わせて52%と高い比率を占めている。今後は、昨年4月の成年年齢引下げに伴い、18歳から19歳を狙ったマルチ取引被害の増加が予想される。
平成28年改正の5年後見直しを契機として、これらの分野を中心とした特定商取引法の抜本的見直しを改めて提言するものである。
- 特定商取引法平成28年改正と5年後見直し
- 訪問販売・電話勧誘販売について
- 拒否者に対する訪問勧誘の規制
特定商取引法第3条の2第2項は、消費者が契約を締結しない旨の意思を表明した場合に、事業者が勧誘を行うことを禁止しているが、消費者庁は、「訪問販売お断り」と記載された張り紙等(以下「ステッカー」という。)を家の門戸に貼付することについて、意思表示の対象や内容、表示の主体や表示時期等が必ずしも明瞭でないとして、同項の「契約を締結しない旨の意思」の表示には該当しないとの解釈を示している。
しかし、このような解釈を採用すると、消費者があえてステッカーを貼付しているにもかかわらず結局は勧誘に対応することを強いられることになる。また、対応した結果、不本意に勧誘を受け入れることを応諾させられてしまう危険性もある。加えて、販売業者ごとに個別に拒絶しなければならない点も不便である。
そもそも、同規定は、意思の表示方法として、文書その他の表示によるものを排斥していない。また、多くの自治体が消費生活条例等においてステッカーに効力を認めているところ、消費者庁も、これら条例上の効力を認めており、その解釈は一貫性を欠くものとなっている。
これらの点に鑑み、現在の消費者庁の解釈は直ちに改められるべきであり、解釈上の疑義を残さないために、ステッカーにより拒絶の意思を表明した場合が、特定商取引法第3条の2第2項の「契約を締結しない旨の意思を表示した」場合に該当することを条文上明らかにすべきである。
なお、このような提案を、不招請勧誘の禁止を求めるものであるかのように指摘する見解もあるが、既に規定が存在する消費者の拒絶の意思の尊重の徹底を求めるものにすぎず、これを不招請勧誘の禁止を求めるものと理解することは不適切である。 - 拒否者に対する電話勧誘販売の規制
電話勧誘販売についても、訪問販売と同様に、少なくとも、消費者が勧誘を拒絶したにもかかわらず、電話勧誘販売を行うことは、許されるべきではない。
特定商取引法第17条は、消費者が契約を締結しない旨の意思を表明した場合に、事業者が勧誘を行うことを禁止している。電話機の応答機能(留守番応答機能)や迷惑電話対応措置により、拒絶の意思を伝えることは可能ではあるものの、装置設置のための経済的負担や、事業者以外からの電話に対しても応答メッセージを流すことになってしまう不便さ等から、勧誘拒否の意思を表示する方法として必ずしも広まっているとは言えない。そのため、多くの消費者は、迷惑な電話をいったんは受信しなければならないという負担を解消できず、応答した結果、不本意に勧誘を受け入れることを応諾させられてしまう危険も生じている。また、販売業者ごとに拒絶しなければならなくなる。
そこで、消費者が意に反する電話勧誘(接触)を受けないようにするためには、Do-Not-Call制度、すなわち、電話勧誘を受けたくない人が電話番号を登録機関に登録することとし、登録された番号には事業者が電話勧誘することを禁止する制度を導入すべきである。
以上より、特定商取引法第17条の規律に更に一歩進め、消費者が事前に電話勧誘販売を拒絶できる登録制度を導入すべきである。
なお、Do-not-Call制度を採用するといわゆる「カモリスト」として悪用されるのではないかとの懸念の声も存在するが、登録電話番号を登録機関が事業者に開示する方式(リスト開示方式)ではなく、登録機関の保有する電話番号を事業者側が照会する方式(リスト洗浄方式)を採用すれば、悪用されることは相当程度防止することができる。
- 拒否者に対する訪問勧誘の規制
- 通信販売について
- インターネットを通じた勧誘・アクティブ広告の誘引により申込み・契約した場合の行政規制、クーリング・オフ及び取消権
- 問題点
特定商取引法の通信販売は、消費者がカタログを閲覧した申込みをする形態や、インターネットで消費者が自らウェブサイトを閲覧して申込みを行う形態が想定され、かかる取引形態に対応する規制が設けられてきた。
しかし、近年、通信販売で急増している消費者トラブルにおいては、消費者が自ら積極的に通信販売業者のウェブサイトを閲覧して申込みをするのではなく、消費者が利用しているSNSを通じてメッセージが送られてきたり、SNS上の広告を見たりしたこと等がきっかけでインターネットを通じて事業者やその関係者から勧誘され、申込みに誘導される例が多い。その中には、いわゆる情報商材や出会い系サイト(サクラサイト)等を通じた広告が多い。
かかる手段による勧誘は、消費者からすれば、突然一方的に示されるものであり、不意打ち性が高い点で、訪問販売や電話勧誘販売と同様の問題点がある。また、こうしたインターネットを通じた勧誘は、消費者のスマートフォンやパソコン等の私的領域内で行われ、一対一のやり取りが中心となるため、密室性が高い点で、やはり訪問販売や電話勧誘販売と類似する点がある。また、SNS等による繰り返しの勧誘や、動画等も利用した勧誘は、相手が見えず、相手の素性や様子が分からないまま勧誘されるため、匿名性が高い点で電話勧誘販売と類似する。さらに、SNS等でのやり取りやウエブ説明会、動画サイト、無料通話アプリによる通話等に基づいて契約締結がなされる場合、契約の内容が曖昧・不確実になりやすい点でやはり電話勧誘販売と類似する点があるという特徴がそれぞれにある。
インターネットを通じた勧誘でも、無料通話アプリの通話によって勧誘を受ける場合等、電話勧誘販売に該当する場合も多いが、事業者が通信販売該当性を主張しクーリング・オフに応じない事案が多発している。すなわち、通信販売が事実上の抜け穴として悪用されている実態も顕著である。
とりわけ、ターゲティング広告によって誘引された通信販売については、従来の通信販売と異なり、次のような顕著な特徴がある。
すなわち、ターゲティング広告は、従来のチラシと異なり、検索・閲覧履歴やGPS情報等を用いて趣味嗜好や生活圏等によってターゲットとする消費者を絞り込んだ上で当該広告によって即座に申込みをさせる意図の下に提供される。また、広告の内容は、「商品等の内容や取引条件その他これらの取引に関する事項を具体的に認識し得るような内容」である。そして、広告に表示されたリンクから誘導された申込画面によって申込みをする場合、広告と申込みの意思表示との因果関係も明瞭である。これらの特徴からすれば、ターゲティング広告による誘引は、消費者の契約締結の自主性を阻害するものであり、まさに「勧誘」そのものと評価できるものである。
また、ターゲティング広告は、消費者が別の目的でスマートフォン等の画面を見ている際に、突然割り込んで表示されるため、消費者は他の選択肢を能動的に検討しない傾向となり、心理的には事実上比較購買が困難になる。こうした特徴からすれば、訪問販売等と同様、不意打ち的に消費者への働き掛けをするものと言える。さらに、ターゲティング広告は、掲載できる情報量が多く、購買意欲をそそる表現を繰り返し掲載することができる(「今だけ」、「あと〇個のみ」、「初回無料!」等)。これにより、消費者にとって契約締結の判断に影響を与える重要な事項を相対的に埋没させ、正確な情報の取捨選択を困難にするという問題がある。 - 導入すべき規制等
以上のような通信販売等の問題点に鑑み、まず、行政規制の内容として、インターネットを通じて勧誘が行われる場合については、(ア)氏名等の表示、(イ)再勧誘の禁止、(ウ)不実告知の禁止、(エ)故意の事実不告知の禁止、(オ)威迫困惑行為の禁止、(カ)債務の履行拒否・不当な遅延の禁止、(キ)過量販売の禁止、(ク)迷惑を覚えさせる勧誘・解除妨害行為の禁止、(ケ)判断力不足に乗じた契約締結の禁止、(サ)契約書面に虚偽記載をさせる行為の禁止、(シ)金銭を得るための契約を締結させるための行為の禁止、(ス)消耗品の誘導開封の禁止等を設けるべきである。
また、民事上の規定としては、消費者によるクーリング・オフ、不実告知及び重要事実の不告知の場合の取消権を規定するべきである。
特に、前記ターゲティング広告による誘引は、訪問販売や電話勧誘販売と同様に行政規制を設けるとともに、消費者によるクーリング・オフや取消権を認める制度を導入すべきである。
- 問題点
- インターネットを通じた通信販売における継続的契約の中途解約権
- 継続的契約に関する問題点
通信販売により継続的な役務提供契約を締結する場合、役務の内容を把握しづらく、消費者が契約内容を十分に理解しないままに契約を締結してしまうことも少なくない。そのため、契約を締結した後に、想定していた役務内容と異なったり、また、消費者側の事情が変わったりするなどして、解約が必要となるケースもある。
しかし、継続的契約の場合、一度締結すると容易に解約できない場合もあり、消費者が負担する代金も高額になりがちである。また、解約できるとしても、高額な違約金を請求されるという問題がある。 - 導入すべき規制等
以上のような問題点から、インターネット通信販売による継続的契約については、特定継続的役務提供と同様に中途解約権(事由を問わずに将来に向かって契約を解消する解除の趣旨)を認め、その場合に消費者が負担する損害賠償額の上限を定めるべきである。
- 継続的契約に関する問題点
- 解約・返品に関するインターネット通信販売業者の受付体制整備義務
- インターネット通信販売の解約受付体制に関する問題点
インターネット上の通信販売に関するトラブルにおいて、ウェブサイト上で購入の申込みを受け付けている通信販売業者がウェブサイト上での解約受付体制を設けていない場合があり、また、解約受付に際して申込時に提供した個人情報に加えて個人情報に関する証明資料等を要求し、そのため事実上、解約・返品が困難になっているケースがある。近年増加しているサブスクリプション契約でも解約方法が分からない等のトラブルが発生している。また、「電話による解約のみ受け付ける」旨を表示しておきながら、消費者が業者に架電してもつながらず、その間に解約申出期間が経過してしまったことを理由に解約・返品を拒まれるケースも散見される。 - 導入すべき規制等
インターネット通販による契約の申込みを受け付ける通信販売業者が解約・返品特約(解約方法)を定める場合はもちろんのこと、このような特約がない場合であっても、消費者が解約を希望する場合、契約申込みと同様の方法(ウェブサイト上の手続)による解約申出の方法を認めることを通信販売業者に義務付けるべきである。また、解約・返品の申出に当たり、申込みの際に解約・返品申出者が事業者に提供した情報に追加して個人情報の証明資料を要求することを禁止すべきである。
また、消費者からの解約申出に対する受付体制の整備義務、及び解約申出に対して迅速かつ適切に対応する体制の整備義務を設けるべきである。
そして、通信販売業者が電話による解約申出を認める場合に、電話がつながらなかったことによって解約の意思表示ができないまま解約可能期間を経過したとしても、消費者が同期間内に解約申出のために架電した場合は、当該通信販売業者が「正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたとき」に当たるものとして、同期間内に解約の申出があったものとみなすことを確認する規定を設けるべきである。
- インターネット通信販売の解約受付体制に関する問題点
- インターネット広告画面に関する規制の強化
- 広告画面に関する問題点
定期購入のトラブルが発生しているインターネット広告画面の中には、消費者の誤認を招く不公正な表示がなされている事例が少なくないが、特定商取引法第11条の広告表示義務の規定では、所要事項が広告のどこかに表示されていれば、それ自体に「著しく虚偽」又は「誇大な表示」がない限り、表示義務に違反していないと解される可能性がある。また、誇大広告等の禁止に該当するための要件(同法第12条)は「著しく」等と抽象的かつ不明確であるため、脱法を狙う事業者の行為を規制しきれていない。さらに、健康食品や化粧品についての定期購入契約では、商品の品質・効能等につき「著しく優良であると誤認させるような広告」によってトラブルが多発しているが、現在の広告規制では、優良誤認該当性の要件が抽象的かつ不明確であり、規制として不十分である。 - 導入すべき規制等
ア 禁止される広告表示例の明確化
以上の問題点からすれば、インターネット広告画面について契約内容の有利条件と不利益条件、商品等の品質や効能等が優良等であることを強調する表示とその意味内容を限定する打消し表示を、それぞれ分離せず一体的に記載するルールを設けるべきである。その上で、それに反する表示を特定商取引法第14条1項第1項第2号の指示対象行為(顧客の意に反して申込をさせようとする行為)に加えるとともに、禁止される表示例をガイドライン等で明確化すべきである。
イ 広告表示における透明性の確保
そもそも商品及び役務について自主的かつ合理的な選択の機会が確保されることは、消費者の権利である(消費者基本法第2条第1項)。その権利実現のためには、前記アの方法にとどまらず、消費者が取得しようとする商品・役務に関して、事業者が網羅的で正確かつ分かりやすい広告表示を行うこと(広告表示における透明性の確保)を法令等が明確化すべきである。
- 広告画面に関する問題点
- インターネットの表示を中止した場合の行政処分
- インターネット表示に関する行政処分上の問題点
行政処分の要件は、「通信販売に係る取引の公正及び購入者又は役務の提供を受ける者の利益が害されるおそれがあると認めるとき」(特定商取引法第14条第1項柱書、同法第15条第1項柱書)であるところ、通信販売業者は、インターネット広告や特定申込みを受ける場合の画面の表示の中止・削除を容易に行い、「利益が害されるおそれ」が消滅したと反論することがある。また、いつでも再表示が可能であるから、表示を中止した場合に行政処分ができないとすれば不当な広告表示等を抑止して消費者の利益を保護しようとした法の趣旨が没却される。 - 導入すべき規制等
以上のような問題点に鑑みれば、通信販売業者がインターネット広告や特定申込みを受ける画面の表示を中止した場合でも行政処分が可能であることを法令上明確にする必要がある。
- インターネット表示に関する行政処分上の問題点
- インターネット上の広告・申込画面、広告・勧誘動画の保存、開示、提供義務
- インターネット上の広告・画面等に関する問題点
インターネット通信販売における定期購入契約のトラブルにおいては、購入者が通信販売業者に対し、一定期間の定期購入契約であることなどの契約条件が広告画面及び申込画面に適切に表示されていなかった旨を申し出ても、事業者側から適切に表示していた旨の反論がなされることがある。実際、紙の広告等とは異なり、インターネット広告画面や申込画面は変更又は削除が極めて容易であるため、その時点では既に購入者の申込み当時のものから変更されている場合も多い。また、近時は、動画を用いた副業・儲け話などの広告・勧誘がインターネット上で行われるケースも少なくない。一方、消費者が広告・申込画面、広告、勧誘動画等を保存していることは多くはないし、特に、画面の保存方法等に慣れていない高齢者に自主的な証拠保全措置を期待することは現実的ではない。 - 導入すべき規制等
このような状況で、契約申込みに至る過程で閲覧した広告画面や実際に申込みを行った際の申込画面、広告・勧誘動画の内容を確認できなければ、購入者が取消権等を行使することは困難であるため、通信販売業者に対し、広告・申込画面、広告・勧誘動画の保存・開示・提供義務を認める必要がある。これを認めても、インターネット通信販売業者にとっては、広告・申込画面、広告・勧誘動画の保存・開示・提供は容易であり、過度な負担にはならない。
また、購入者がアフィリエイト広告等、通信販売業者から委託を受けた者による広告や動画を見て購入に至る場合も多いため、アフィリエイト広告等の画面・動画についても、保存・開示・提供義務を認める必要がある。この広告・申込画面、広告・勧誘動画の保存・開示義務における制度導入は、デジタル活用に不安のある国民に対する国のデジタル活用支援の一環として位置付けることができるものである。
- インターネット上の広告・画面等に関する問題点
- 連絡先が不明の通販事業者及び当該事業者の勧誘者等を特定する情報の開示請求権(詐欺等加担者情報開示請求権)
- 事業者の特定・連絡先に関する問題点
民事訴訟を提起するためには、当事者を特定するため、訴状に当事者となる者の氏名や名称、住所等を記載しなければならない。
しかし、特定商取引法上の表示義務は、「広告するとき」に限られているため、個別の勧誘時に販売業者又は役務提供事業者の氏名又は名称、住所及び電話番号の表示義務が及ぶかは文言上明らかでない。また、同法第11条違反の場合の指示及び業務停止命令の対象は販売業者又は役務提事業者に限られており、広告又は勧誘を行ったものが販売業者又は役務提供事業者から独立している場合、行政規制の対象にならない。
さらに、プロバイダ責任制限法は、発信情報開示の対象となる権利侵害行為を「特定電気通信」(同法第2条第1号)、すなわち「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」によるものに限定しており、詐欺的な広告、勧誘を経た通信販売による財産被害には用いることができないため、結果的に、販売業者又は役務提供事業者の氏名又は名称、住所及び電話番号を特定できないことがほとんどである。 - 導入すべき規制等
特定商取引法上の表示義務を満たさない販売業者又は役務提供事業者や、インターネット上の勧誘を行った勧誘者について、詐欺的な広告、勧誘を経た通信販売に関する被害を回復するため訴状の必要的記載事項である当事者の氏名又は名称及び住所等を得るためには、SNS事業者、プラットフォーマーその他の関係者に対して、情報の開示を請求できる必要がある。この際、広告又は勧誘を行った者が販売業者又は役務提供事業者から独立していたり、実質的には一体であっても被害者からは立証が困難であったりすることに鑑みれば、開示対象は販売業者又は役務提供事業者に限らず、広告又は勧誘に関与したもの全てであるとすべきである。
したがって、特定商取引法第11条第5号及び同法施行規則第8条第1号又は第2号の表示義務を満たさない通信販売に関する広告又はインターネット等を通じて行った勧誘により自己の権利を侵害されたとする者は、SNS事業者、プラットフォーマーその他の関係者に対して、通信販売業者及び勧誘者を特定する情報の開示を請求できることとする立法措置を講ずるべきである。
- 事業者の特定・連絡先に関する問題点
- 適格消費者団体の差止請求権の拡充
以上の点についての実効性を担保するために、適格消費者団体の差止請求権の対象として、通信販売事業者による前記⑴において提案する取消権の対象となる行為、同⑴において提案するクーリング・オフや同⑵において提案する中途解約権を制限する特約や妨害行為、同⑶の解約等への受付体制整備義務に違反する行為、同⑷の広告規制等に違反する行為を追加するべきである。
また、事業者が違反行為を中止した場合であっても、同種行為の再開のおそれがあるときは、前記⑸の行政処分のみならず、適格消費者団体の差止請求が可能であることを特定商取引法に明示すべきである。
- インターネットを通じた勧誘・アクティブ広告の誘引により申込み・契約した場合の行政規制、クーリング・オフ及び取消権
- 連鎖販売取引当等について
- 連鎖販売業に対する開業規制の導入
近時は、健康食品、化粧品、日用品等の消耗品の販売よりも、各種の投資取引、アフィリエイト等の副業、暗号資産(仮想通貨)等の利益収受型の物品又は役務を対象に販売を拡大する手法としてマルチ取引を用いる、いわゆる「モノなしマルチ商法」のトラブルが増加している。勧誘方法も、特に若者を対象に、インターネット等を利用してメール、SNS等によるものが増加しており、組織の実態、中心人物の特定やその連絡先を知ることができず、自分を勧誘した相手方の素性も分からないなど、被害の回復が困難なケースが増えている。
従前から、金融商品取引業に該当する行為を無登録で行うなど金融商品取引法に違反するものや、実態が無限連鎖講の防止に関する法律に違反する金品配当組織であるようなものが、連鎖販売取引の手法を用いて被害を拡大させるケースが繰り返されている。
また、連鎖販売取引においては、単なる物品販売や役務提供とは異なり、特定利益の収受を目的として、一定期間にわたり取引を続けることが想定される。したがって、連鎖販売取引業者には、組織、責任者、連絡先等を明確化し、取扱商品・役務の内容・価額、特定利益の仕組み、収支・資産の適正管理体制、トラブルが生じた場合の苦情処理体制や責任負担体制の明確が求められるものというべきである。
そこで、事業者が行おうとする連鎖販売取引業の適法性、適正性等を行政庁が事前に審査する手続を経た場合にのみ取引を行うことができるものとする開業規制を導入するべきである。 - 後出し型連鎖販売取引の適用対象への追加
- 後出しマルチの問題点
近時、物品販売等の契約を締結した後に、新規加入者を獲得することによって利益が得られる旨を告げてマルチ取引に誘い込む事例、つまり特定利益の収受に関する説明を後出しするマルチ取引(以下「後出しマルチ」という。)のトラブルが増えている。
後出しマルチは、大学生などの若者がターゲットにされ、投資に関する情報商材やセミナー、自動売買ソフト、副業のコンサルタント・サポートなどの利益収受型の物品又は役務の契約が先行してなされるものが多い。容易に利益が得られるかのような誘引行為により、借入れをしてまで契約の締結に至ったものの、勧誘時の説明と異なって利益が得られない事態となった場面で、他の者を勧誘して契約を獲得すれば特定利益が得られることを誘引文句として持ち出すことにより、借入金の返済に窮した契約者が自らも勧誘員として新規契約者の勧誘に走るという構造にある。
そして、後出しマルチの手法により勧誘員となった者は、販売対象の利益収受物品・役務の内容やそれを用いた投資に関する十分な知識を有しているものでもなく、むしろそれが当初の説明どおりの価値のあるものではないことを認識した後に他の者を勧誘していることが想定されるため、新規契約者を獲得することによって利益を得ることを目的とした不当勧誘が繰り返さていくことにつながっている。 - 導入すべき規制等
以上の問題点に鑑み、特定商取引法第33条第1項を改正して、現行法の連鎖販売取引の定義規定に後出しマルチを加えて、脱法的な後出しマルチ取引を防止する必要がある。すなわち、特定利益を収受しうる契約条件と特定負担を伴う契約の組み合わせた仕組みを設定している事業者が、連鎖販売取引に加入させることを目的としながら、特定負担に係る契約を締結する際には特定利益の収受に関する契約条件の存在を説明せず、特定負担に係る契約を締結した後に特定利益を収受しうることを告げることを明確に連鎖販売取引の規制対象とするべきである。
- 後出しマルチの問題点
- 不適合者に対する紹介利益提供の勧誘等の禁止
勧誘活動を行う他の者を獲得することにより特定利益を収受し得ることをもって誘引する連鎖販売取引を、社会経験不十分な22歳以下の若年者との間で行うこと、投資取引・投資情報等の利益収受型取引を対象商品・役務として行うこと、借入金・クレジット等の与信を利用して行うように勧誘することについて、いずれも適合性に反する取引として禁止すべきである。
これらの適合性に欠ける相手方に対しては、連鎖販売取引の要件に該当する場合に限らず、新規契約者の獲得により紹介利益を収受し得ることをもって勧誘すること自体が不適正な勧誘行為に当たるものというべきである。
そこで、以下に掲げる契約類型においては、物品販売等の契約を締結する時点において特定利益収受の仕組みの設定や連鎖販売取引に加入させる目的を有しているか否か(連鎖販売取引の拡張類型に該当するか否か)にかかわらず、その者との間において、新規契約者を獲得することにより紹介利益が得られることを内容とする契約の勧誘や締結を禁止するべきである。なお、この規定は、連鎖販売取引の章に置くのではなく、訪問販売・電話勧誘販売・通信販売の章に設けることも考えられる。- 先行する契約の相手方が22歳以下の者である場合
22歳以下の者は、成人であっても学生であったり、就労してはいてもその年数が浅いなど社会的経験が乏しかったりする。これらの者のマルチ取引によるトラブルも多く発生している。そのため、かかる者との間のマルチ取引は適合性に反するものであり、事後的な紹介利益提供の勧誘等も禁止するべきである。 - 先行する契約の相手方が投資等の利益収受型の取引を締結した者である場合
後出し型連鎖販売取引において述べたとおり、利益収受型取引の相手方に対して後出しで紹介利益の収受を勧誘することは、構造的に不適正な勧誘が繰り返されていくことにつながるおそれが大きいというべきであり、紹介利益提供の勧誘等は禁止するべきである。 - 先行する契約の相手方が当該契約の対価にかかる債務(その支払のための借入金、クレジット等の返済)を負担している者である場合
先行する物品販売等の契約に基づく債務を負担している者は、その支払を行わなければならない状況にあるため、不実告知や断定的判断の提供、強引な勧誘等の不適正な販売方法につながるおそれが大きいことから、かかる者に対する紹介利益提供の勧誘等は禁止するべきである。
- 先行する契約の相手方が22歳以下の者である場合
- 連鎖販売取引における特定利益の計算方法等の説明義務の新設
連鎖販売取引は、これに加入することで当該加入者及びほかの構成員の販売活動により利益を得ることを目的とした投資取引の一種でると考えることができる。また、新規加入者が後続の加入者を順次勧誘するという特性から、「必ず儲かる」等の不実告知や断定的判断の提供といった不当な勧誘がおこなわれやすく、誤認による契約を招くおそれがある。
そこで、特定負担についての契約を締結しようとする連鎖販売を行う者には、その相手方に対し、①収受し得る特定利益の計算方法、②特定利益の全部又は一部が支払われないことになる場合があるときはその条件、③最近3事業年度において加入者が収受した特定利益(年収)の平均額、④連鎖販売を行う者その他の者の業務又は財産状況や特定利益の支払の条件が満たされない場合等により、特定負担の額を超える特定利益を得られないおそれがある旨の説明を義務付けるべきである。さらに、概要書面及び契約書面にも記載しなければならないものとするべきである。 - 連鎖販売取引における業務・財務等の情報開示義務の新設
同様の理由から、①統括者がその連鎖販売業を開始した年月、②直近3事業年度における契約者数・解除者数・各事業年度末の連鎖販売加入者数、③直近3事業年度における連鎖販売契約についての商品又は権利の種類ごとの契約の件数・数量・金額、又は役務の種類ごとの件数・金額、④直近3事業年度において連鎖販売加入者が収受した特定利益(年収)の平均金額を概要書面及び契約書面に記載しなければならないものとするとともに、統括者には、これらの事項並びにその連鎖販売業に係る直近の事業年度における業務及び財産の状況を連鎖販売加入者に開示することを義務付けるべきである。
- 連鎖販売業に対する開業規制の導入
以上