2021年(令和3年)9月27日
奈良弁護士会会長 中村 吉孝
第1 声明の趣旨
2021年6月23日、最高裁判所大法廷は、夫婦同氏を強制する民法750条及び戸籍法74条1号の規定を、2015年12月16日の大法廷判決を引用した上で、憲法24条に違反するものではないと判示した。しかし、この決定は不当であり最高裁判所に対し強く抗議するとともに、国会に対しても速やかな法改正を求める。
第2 声明の理由
- 夫婦同氏強制は人権侵害であり最高裁判所が違憲判断をすべきであったこと
(1)夫婦同氏を強制する民法750条及び戸籍法74条1号の規定は、憲法13条及び24条2項が保障する個人の尊厳、24条1項及び13条が保障する婚姻の自由、14条1項及び24条2項が保障する平等権を侵害するものである。
氏名は個人の尊厳を支える重要な人格権の一内容であり、改氏を義務づけられることは個人の識別を阻害し、変更前の氏名に紐付けられた個人の信用や評価を失うという重大な不利益がもたらされる。現行法のもとでは、法律上の婚姻をしようとすれば、必ず、一方当事者だけがこの改氏に伴う重大な不利益を負担せざるを得ない。そして、氏名の変更を望まないカップルは、法律上の婚姻をすることができない。
(2) また、「平成28年度 人口動態統計特殊報告「婚姻に関する統計」の概況(厚生労働省)」によれば、婚姻で強制される改氏に伴う重大な不利益を被るのは2015年時点においても96パーセントが女性であり、実質的不平等が生じている。
かかる状況は、1996年2月、法制審議会から選択的夫婦別氏制度を内容とする「民法の一部を改正する法律案要綱」が法務大臣に答申された時点において、すでに認識されていたにもかかわらず、25年を経て未だ法制化されていない。
さらに、2015年12月16日大法廷判決においては、改氏による不利益を特に女性が被っていることを踏まえ、選択的夫婦別氏制度の導入について「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄」であるとしているが、その後、実に6年を経ても未だ国会で議論は進んでいない。
(3)このような状況であるにも関わらず、2021年に至って、再度、最高裁が選択的夫婦別氏の問題を立法論の問題として違憲判断を避けたことは、最高裁は人権の最後の砦としての役割を果たしていないと言わざるを得ない。 - 早期に国会で選択的夫婦別氏立法をすべきであること
(1)夫婦同氏を強制している国は日本だけである。上記のとおり、我が国でも25年前から立法の必要性は明らかになっており、かつ、2015年には最高裁から「国会で論じられ、判断されるべき」と明示的に示唆されたにもかかわらず、国会では未だ具体的な審議は行われていない。
(2)選択的夫婦別氏について立法し制度化したとしても、夫婦同氏を望む夫婦は同氏を続けることができるのであって、国家によって別氏を強制される夫婦は発生しない。選択的夫婦別氏に反対する論拠として、夫婦別氏婚をした夫婦間の子の福祉について指摘がなされることがあるが、そもそも同氏以外の夫婦を想定していない社会の状況やそれに伴う偏見が子の福祉に影響をもたらすのであって、別氏の夫婦が当たり前に存在する社会では問題にならない。
選択的夫婦別氏の実現、すなわち選択的夫婦別氏を望む者にとって現在侵害されている人格権や平等権が回復されたとして、これにより制約をうける他者の人権は存在しない。選択的夫婦別氏が実現されたとしても、別氏を希望しない者に不利益をもたらすような変化は起きない。
(3)最高裁判所の合憲判断は不当であるが、二度にわたり「国会で論ぜられ、判断されるべき」と指摘されたことを、国会は重く受け止め、直ちに法改正すべきである。
第3 結語
以上のとおり、当会は、2021年6月23日の大法廷決定は不当であって強く抗議するとともに、国会に対し、速やかに選択的夫婦別氏を導入すべく法改正することを求める。
以上