奈良弁護士会
会長 兒玉 修一
会長 兒玉 修一
- 現在,内閣府消費者委員会の特定商取引法専門委員会において,特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)の改正に向けた審議が行われている。従来から,訪問や電話での勧誘に始まる不意打ち的な販売行為による消費者被害は後を絶たない状況にあり,改正に向けた論点の一つとして,訪問販売及び電話勧誘販売における不招請勧誘規制の強化が議論されている。
- そもそも訪問及び電話による不招請勧誘は,私生活の平穏を害し,プライバシーを損なう行為であり,消費者の意向を踏まえない事業者からの勧誘はなされるべきではない。また,不招請勧誘を契機として,消費者が不当又は不正な取引あるいは不本意な取引に巻き込まれる危険性がある。
しかし,現行の特定商取引法は,訪問販売及び電話勧誘販売について,訪問及び電話による勧誘を受けた消費者が,勧誘にかかる契約を締結しない意思表示をした場合には,当該消費者に対する継続した勧誘や再勧誘をする行為のみを禁止するにとどまっている(特定商取引法3条の2第2項,17条。継続勧誘・再勧誘の禁止)。
これでは勧誘開始前に,消費者が事業者に接することなく勧誘を拒否することができず,交渉力の格差等から消費者が不要・不本意な契約を締結させられることになりかねない。 - 実際,不招請勧誘による被害が頻発し,悪質商法の温床にもなっていることは多数の相談事例が示している。特に,その中でも,在宅機会が多く,認知症等により判断能力の低下した高齢者の被害割合が極めて高くなっており,奈良もその例外ではない。
今後,奈良県においても高齢者を対象とする訪問販売及び電話勧誘販売における消費者被害ないしトラブルのさらなる増加が強く危惧されるところであり,早急の対策が必要とされる。 - こうした現状や問題点に鑑みれば,特定商取引法を改正し,契約の締結についての勧誘の要請をしていない消費者に対する,訪問又は電話による勧誘行為(勧誘を受ける意思の有無を確認する行為を含む。以下,同じ)を禁止する制度(オプト・イン規制)を導入すべきである。
仮にオプト・イン規制を導入しないとしても,少なくとも,予め訪問又は電話による勧誘行為を拒絶する意思を表示した消費者に対しては勧誘行為を禁止する制度(オプト・アウト規制)を導入すべきである。
さらに,上記いずれの制度を導入するにしても,制度の実効性を確保するため,違反に対しては,行政処分及び罰則を設けるべきである。また,規制に違反した事業者に不当な利益を保有させず,被害者の財産を回復するため,規制に反する勧誘行為によって契約が締結された場合,消費者は,当該契約の無効(取消し又は解除)を主張できるという民事規定の導入も必要である。 - 当会は,今般,特定商取引法を改正するにあたっては,以上のような形で訪問販売及び電話勧誘販売の勧誘規制を強化した上で,さらに,実効性を確保するための措置が盛り込まれることを強く求める。
以上