奈良弁護士会

集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定に先立ち、内閣法制局が、憲法解釈変更の検討過程に関する文書を作成しなかったことに抗議する会長声明

奈良弁護士会
会長 兒玉 修一

 

  1.  昨年7月1日、政府は、1972(昭和47)年以降堅持してきた集団的自衛権行使は憲法上許されないとする政府見解を変更する閣議決定(以下、「本件閣議決定」という。)を行った。内閣法制局(以下、「法制局」という。)は、その前日に審査のため閣議決定の案文を受領し、閣議決定当日に、「意見はない」と電話で回答したが、その審査の際、集団的自衛権行使を容認するに至った過程を検証しうる文書を作成していないことが判明した。
  2.  そもそも、公文書等の管理に関する法律(以下「法」という。)第1条は、公文書が、「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」であることを確認し、公文書管理の目的が、「国民主権の理念にのっとり」「(公権力の)活動を現在及び将来の国民に説明する責務が全うされるようにすること」であることを明記する。
     また、上記目的を実現するために、法第4条は、行政機関の職員に対して、「当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程を合理的に跡付け、又は検証することができるよう」文書を作成する義務を負わせているところ、文書を作成する事項として同条第2号に「閣議」が挙げられていることからすれば、本件閣議決定がこれに該当することは論を俟たない。
     なお、同規定は事案が軽微な場合には、文書作成義務の例外を認めているが、内閣総理大臣が決定した「行政文書の管理に関するガイドライン」によれば、軽微な場合とは、「文書を作成しなくとも職務上支障が生じず、かつ当該事案が歴史的価値を有さないような場合」に限られるとしており、憲法解釈の変更という重大かつ歴史的意味を有する本件閣議決定の審査について、法制局が意思決定の過程及び回答内容の文書の作成義務を負うことは明らかである。
     そうであるにもかかわらず、報道機関の取材に対して、法制局総務課長は、「今回は必要なかったということ。意図的に記録しなかったわけではない。」「法にのっとって文書は適正に作成・管理し、不十分との指摘はあたらない。」と回答し、内閣官房長官も本年9月28日の記者会見で法制局の対応を擁護した。
  3.  このような本件閣議決定の審査に関する法制局の一連の対応は、法が求める現在及び将来の国民に対する説明責任を放棄するものであり、法律を誠実に執行すべき内閣の責務(憲法73条1号)に反するばかりか、法が理念として掲げる国民主権原理(憲法前文)に対する重大な挑戦であると言わざるを得ない。

 よって、当会は、集団的自衛権行使を容認するに至った過程を検証しうる文書を作成しなかった法制局の対応に強く抗議する。


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