奈良弁護士会

特定秘密保護法施行令等の閣議決定に対する会長声明

奈良弁護士会
会長 中西 達也

 

  1.  2014年(平成26年)10月14日、特定秘密の保護に関する法律(以下「秘密保護法」という。)の関係政令(施行期日政令、施行令、内閣府本府組織例等の一部を改正する政令)及び運用基準が閣議決定された。
  2.  この点、関係政令の素案及び運用基準の素案に対するパブリックコメント募集には、1ヶ月間という短い期間にもかかわらず、2万3820通の意見が提出された。しかし、これを受けて情報保全諮問会議が作成した施行令(案)及び運用基準(案)等の内容は、上記各素案とほとんど変わらないものであり、この各案がこのたび閣議決定された。そのため、多数の国民が、国民の知る権利、プライバシー権等の侵害のおそれに懸念を示していた秘密保護法は、法成立時の懸念が払拭されないまま本年12月10日に施行されようとしている。
  3.  当会は、2013年(平成25年)11月18日付で「特定秘密の保護に関する法律の制定に反対する会長声明」を公表し、また同年12月3日付で「特定秘密の保護に関する法律の制定に反対する総会決議」を公表し、秘密保護法の様々な問題点を指摘し、同法の制定に強く反対してきたところであるが、その後成立した秘密保護法及び今回閣議決定された同法の運用基準には、依然として以下のような問題がある。
  4.  まず、秘密指定できる情報の範囲について、運用基準では、秘密保護法別表該当性を判断するための基準として55の「細目」を設けており、政府は、これにより行政機関の長による恣意的判断ができないよう基準が明確化されたと説明する。
     
    しかし、上記「細目」においても、例えば「防衛に関し収集した電波情報、画像情報『その他重要な情報』」(別表第1号ロ)における「重要な情報」をいかなる基準により判断するかなどの具体的な定めはなく、秘密保護法別表と合わせて総合的に考慮してもその基準は曖昧であり、行政機関の長により恣意的に秘密指定が行われるおそれは解消されていない。また、上記「細目」自体は閣議決定で変更可能なものであり、基準としての明確性、安定性が十分に担保されているとはいえない。
  5.  また、特定秘密の指定・解除等が適正にされているかを検証・監察するために独立公文書管理監(以下「管理監」という。)が設けられ、管理監は、行政機関の長に対し、特定秘密である情報を含む資料の提出もしくは説明を求め、又は実地調査をすることができるとの定めもなされた。しかし、行政機関の長は、「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがない」(秘密保護法10条1項)とは認められない場合などには提供を拒絶することができるとされている。
     
    さらに、内閣府本府組織令等の一部を改正する政令では、管理監は内閣府に置かれるものとされているため、政府から独立した組織とはされていない。また、どのような者が管理監を担当するかについては定めがなく、政府も明らかにしていないため、特定秘密を取り扱う行政機関の出身者が充てられる可能性も否定できない。
     
    したがって、現制度の下では、管理監の独立性や権限行使の適切性は十分に担保されておらず、管理監による実効性ある検証、監察を期待することはできない。
  6.  さらに、取扱業務者等が、特定秘密の指定・解除等が秘密保護法等に従って行われていないと思料するときは、管理監の通報窓口に対し通報できるとの制度も設けられた。
     
    しかし、通報を行う取扱業務者等は、一次的には当該特定秘密の指定・解除等に係る行政機関の通報窓口へ通報しなければならないものとされていること、通報の際には秘密の内容を漏らさないよう要約して通報することが義務づけられているため、要約に失敗し秘密の内容に触れてしまうと過失漏えい罪で処罰されるおそれがあることなどから、当該通報制度は通報者を萎縮させるおそれがあり、実効性ある公益通報制度とは評価できない。
  7.  既に昨年の当会会長声明や総会決議でも指摘したとおり、秘密保護法には重大な欠陥が多数存在し、その制定は許されるべきものではなかった。そして今回の関係政令及び運用基準の閣議決定によっても、これらの重大な欠陥が解消されたとは到底言えない。そもそも関係政令や運用基準で定めた事項についても、本来は直接的に民主的基盤を有する国会において慎重に議論され結論を導き出すべきだったのであり、政府の手法は、かかる民主主義に基づく法制定のプロセスをも軽視したものといわざるを得ない。
  8.  よって、当会は、このように重大な問題を有する秘密保護法(運用基準等を含む。)を直ちに廃止するよう求める。

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