決議事項
当会は、現在、国会において審議中の「特定秘密の保護に関する法律」の制定に強く反対する。
決議の理由
「特定秘密の保護に関する法律」案(以下、「本件法案」という)について、政府は、平成25年9月3日、その概要をはじめて公表し、国民の意見を募集した。しかし、募集期間は2週間と極めて短く、かつ多くの意見が本件法案に反対していたにもかがわらず、10月25日に本件法案を国会に提出した。各種世論調査において国民の大多数が慎重審議を求めていたにもかかわらず、11月26日、衆議院において、本件法案は「強行採決」された。
現在、本件法案は参議院で審議中であるが、議論が尽くされたとは到底いえない。しかも本件法案は、日本国憲法がその基本原理とする、国民主権、基本的人権、平和主義の観点から見て極めて問題が多いものである。当会は、その制定に強く反対する。
1 本件法案は、国民主権原理の観点からみて極めて問題が大きい
日本国憲法が採用する国民主権原理の下では、国政の重要情報は、主権者である国民のものである。したがって、国家秘密についても、その概念及び範囲が明確に限定されなければならない。
しかし、本件法案が保護の対象とする「特定秘密」の内容は、広範かつ不明確である。また、「特定秘密」の該当性は、行政機関の長の判断に委ねられ、これに対する第三者機関のチェックは存在せず、行政機関の恣意的運用の危険がある。さらに、いったん「特定秘密」に指定されれば、その運用次第では恒久的に秘密とされる危険がある。
しかも、国民は、何が「特定秘密」かが秘密であるという状況に置かれる。
したがって、本件法案は、国民主権原理の前提をなす国民の知る権利を侵害する危険が大きい。そしてこの危険は、本件法案が国民の知る権利や取材の自由への配慮を明文化しただけでは解消されない。
2 本件法案は、基本的人権の保障を広範に侵害する
- 本件法案は、「特定秘密」の故意の漏えい行為だけでなく、過失による漏えい行為のほか、漏えい行為の未遂や共謀、教唆及び扇動さらに、特定秘密の取得行為とその共謀、教唆、扇動についても処罰する。
とすれば、国民が、何が罰せられるべき対象かが分からないまま、捜査され、裁判を受けて処罰される危険がある。これは、近代司法の大原則である罪刑法定主義の趣旨に反する。 - また、本件法案は、特定秘密を取り扱う業務に従事する者に関する情報を調査し、これをもとに適性評価するという制度を設けている。
しかし、その調査事項には、精神疾患、飲酒の節度、信用状態等、通常他人に知られたくない個人情報が多く含まれ、「家族」の個人情報も調査事項の対象とされており、プライバシーの侵害の危険が大きい。
さらに、この適正評価制度が思想調査に活用されれば、個人の思想・信条の自由を侵害し、思想・信条による差別的取扱の危険を否定できない。
3 本件法案は、平和主義の観点からみて極めて問題が大きい
国家秘密のうち国の防衛に関する事項については、国家公務員法、自衛隊法、日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法等により、既に保護されており、情報漏えい防止の事後対策も十分行われている。
にもかかわらず、本件法案の成立を急ぐのは、軍事・防衛面での日米の協力関係が深化し、軍事秘密の共有化が進んでいることからの政治的要請に基づくものと考えざるを得ない。
すなわち、本件法案は、国家安全保障会議設置法、国家安全保障基本法案と併せて、いわゆる「軍事立法」としての基本的性格を有するものと言わざるをえない。したがって、本件法案は、日本国憲法がその原理とする平和主義の観点から見て極めて問題が大きい。