ここ数年、政党・新聞社・財界などから憲法の明文改正に向けた具体的な意見や草案が発表され、憲法改正をめぐる議論が活発となっている。また、今国会においては、憲法改正国民投票の手続を定める法律についても議論されている。
これらの動きに対して、日本弁護士連合会は、昨年11月に開催された人権擁護大会において、「立憲主義の堅持と日本国憲法の基本原理の尊重を求める宣言」を行った。当会も、同宣言をふまえ、以下の点を確認するものである。
- 近代から現代にかけての歴史に鑑みるならば、憲法は、「個人の尊重」及び「法の支配」の理念、すなわち「すべての人々が個人として尊重されるために、最高法規として国家権力を制限し、人権保障をはかる」という「立憲主義」を基本理念とすべきである。基本的人権の尊重、国民主権、平和主義といった憲法の基本原則は、この基本理念が維持されてこそ成り立ちうる。
ところが、多くの改憲論は、「憲法の基本原則を維持する」との言葉とは裏腹に、「憲法は、何のために、誰のためにあるのか」という根本的な点について、我々と共通の認識に立っていない。すなわち、それらの多くは、国家権力を規制するという憲法の基本的性格を曖昧にするとともに、国家主義的な傾向を明らかにしている。
なるほど、時代の変化に伴い、憲法の中身は変化しうる。しかし、その基本的な性格、すなわち「立憲主義」の理念は堅持されなければならない。これを否定し、歪めるものは、もはや憲法の改正とはいえない。「公共の福祉」(13条)を「公益及び公の秩序」に書き換えるべきとの議論に象徴されるように、それは、弁護士、弁護士会が擁護すべき「基本的人権」のあり方にも大きな影響を与えることとなろう。 - 多くの国の憲法に平和主義が規定され、国連憲章をはじめとする国際法において戦争の禁止が謳われるようになったのは、「国家が勝つこと」に全てを集中する「戦争」が、最大の人権侵害であるとともに、立憲主義そのものを麻痺させる危険を有しているからである。その意味で、日本国憲法第9条の「戦争を放棄し、戦力を保持しない」という徹底した恒久平和主義は、平和への指針として世界に誇りうる先駆的意義を有するものである。
これに対し、現在の改憲論の中には、「国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動」などの名目の下に、海外で軍事行動をとる「自衛軍」を創設しようとするものがある。その活動は、国際法(国連憲章)で規定された集団的自衛権の行使あるいは集団的安全保障活動の枠組みすら超えるものとなるのではないか、との危惧を抱かざるを得ない。そのような改憲は、立憲主義の理念と相容れず、およそ平和主義とは評価しえぬものである。
当会は、以上の見地から、日本弁護士連合会及び他の弁護士会とともに、憲法の基本理念を堅持するとともに、その理念が真に国民に定着するよう、取り組む決意である。
以上の通り宣言する。